…コンラッドが。

コンラッドが「食べたい」と言った。おれは何を食べたいのかと聞いた。寝台に引き倒されて、服を奪われてようやく、おれはうさぎでコンラッドはライオンなのだと思い出した。

 

「う…嘘……ッ」

 

おれ、食べられちゃうの!?

仰向けに転がされたおれの上に、コンラッドが覆い被さる。慌てて暴れたものの、やすやすと押さえ込まれてしまった。ライオンとうさぎの体格差、その上この不利な体勢では、どうしようもない。

 

「あんた、まさか…おれをふくふく肥えさせてから食べようとか思ってて、それで今までおれを守ってくれてたのかよ!?」

「ふくふく……」

 

コンラッドは少し笑って、ふくふくは関係ないですと付け加えた。

…おれの全力を押さえ込んでおきながら、なんだその余裕の表情は。そんなおれの心の声が聞こえたのか、コンラッドは不意に真剣な表情を見せた。

 

「あなたを側に感じたいだけなんだ」

「そば、に?」

「…すみません、こんなに事を急いてしまって。でも今日のあなたを見ていたら堪らなくなった」

「……って、わッ」

 

コンラッドの顔が近付いてきて、おれは反射的に顔を逸らした。そうして剥き出しになってしまった首に、何か柔らかいものが…多分唇が、触れる。

唇はそのまま首筋に沿ってゆっくりと動かされた。逃れようにも、両手はがっちりと固定されてしまって動けない。気付けば、両足の間にコンラッドの体が入り込んでしまって、足での抵抗も封じられていた。

 

「ひぁ……ッ」

 

変な声が漏れてしまった。急に…舌が這ったから。生暖かい本能的なぬめりが首筋を濡らして、おれはただ必死で顔を逸らし続けるしかなかった。

じっと耐えていると、不意に手を動かされた。圧倒的な力の差で、コンラッドの左手はおれの両手首をひとまとめに押さえ込んでしまう。

 

「な、なんのつもり…」

「……じっとしていて…」

 

強制的にじっとさせてるんじゃねーかよ、と叫ぼうとして出来なかった。胸先を摘まれてしまい、下手に口を開くとまた変な声を出してしまいそうで。

 

「ん……っぁ」

 

コンラッドの右手は、おれの胸のそれを慈しむように揉みほぐし、時折刺激的にひねった。その時折の痺れと、それを癒すような指先の動きに、むず痒いような妙な感覚が生まれた。

その間も、コンラッドの舌はおれの耳の裏から鎖骨あたりの範囲を行き来している。

幾重もの浮くような感覚に、頭がぼんやりとし始めた。まとめて捕らえられている両手首は、抵抗の意を示そうとして失敗したみたいに弱弱しく揺れる。

このままじゃヤバい。このままじゃおれ、おれは…、……なんだっけ? もう刺激を受け流すことに精一杯で、思考はあやふやだ。

いつもピンチの時はコンラッドが助けてくれた。そのコンラッドに襲われたら、助けも呼べない。いつも側にいて、助けてくれたコンラッド。そのコンラッドが、おれを。

 

「…嫌ですか」

「え……」

 

答えようとする呼気が熱い。

嫌って、何が。なんだっけ。………あ、

 

「嫌…に決まってるだろっ! 普通、食べられたくなんかないって! …お、おれなんか食べてもおいしくないだろうし……っ」

 

コンラッドは、いつもの微笑を少しだけ困ったように歪めた。

その表情をどう見れば良いのか分からなくて、おれはまた顔を逸らした。が、「逃げないで」とそっと顎を掴まれ、コンラッドの方へ顔を向け直させられる。…どうしよう。

 

「……なんで…おれなんかを、食べたいんだよ」

「あなたを側に感じたいから」

 

さっきも同じ台詞を聞いた。おれの側に? いつも側にいるじゃないかと反論したら、

 

「もっと深く、側に」

 

と返されてしまった。

そして困ったことに、「側に」という気持ちはおれにも理解できてしまう。「食べたい」と言われても断固拒否、絶対拒否だけど、「側にいたい」と言われたら…確かにおれもコンラッドの側にいると安心するし、離れたくないと思ってしまうし、もっと深く側にというのはまんざらじゃなくて…ああでもコンラッドのそれは「食べたい」と同義なんだから…

頭をパンクさせそうな勢いで唸っているおれに、コンラッドは一つの提案をした。

 

「じゃあ今日は、味見だけ」

「……あじみ?」

「そう、少し味見を。それだけなら許してくれますか」

 

覗き込んでくる双眸は、いつも通りに優しい。

味見だけなら。とりあえず味見だけなら、ちょっと齧られるぐらいなら。それでコンラッドの言う「側に」が少しでも達されるのなら、構わないのかもしれない。

 

「…痛すぎるのは、嫌かも」

 

コンラッドは、おれが提案を受け入れたものとみなしたのだろう、おれの両手首を解放した。

 

「痛くはないです、苦しくも。味見だけですから」

 

おれはその言葉を信じて、全身の力を抜いた。それは全てをコンラッドに預けてしまうことに他ならない行為だけれど、今までコンラッドがおれにしてくれた様々を思い浮かべれば、容易かった。