今日も、外は良い天気。

小うさぎユーリは、草原をぴょんぴょんと跳ね回ってご機嫌だ。

傍でそれを見守るのは、獅子コンラッド。

ユーリの護衛……とまで表現するのは大袈裟だが、ユーリが安全であるよう、コンラッドは常に周囲に気を配っている。この辺りには数こそ少ないが危険な狼も生息しているし、ハマると危険な池もある。コンラッドが付いているからこそ、ユーリの母も「コンラッドさんがいるなら安心ね♪」と息子を森で遊ばせることができるのだ。

ただし、ユーリの兄うさぎは「ライオンの方が危険だろうがーッ!!」と反対意見を唱えているが。

 

 

「ユーリ。そろそろ休憩にして、俺の家に来ませんか」

 

楽しい運動タイムを中断させるのは忍びなかったが、心地良いぽかぽか陽気は意外と体の水分を奪うし、夢中で動き回れば気付かぬうちに疲弊する。コンラッドは、ユーリに適度な休息と水分補給をさせることも自分の役目の一つだと考えている。

 

「コンラッドの家に行くの?」

「おやつの時間だからね。何か食べましょう」

 

おやつ、という言葉に、ユーリの耳がぴこんと反応した。

成長スピードこそ遅まったものの、ユーリはまだまだ食べ盛り。昼食だけではお腹が空くのだ。

 

「行くー!」

 

ユーリがコンラッドの家へ呼ばれるのは、初めてではない。

一人暮らしのコンラッドは、誰に気を遣うことなく他者を家に招くことができるため、度々ユーリを誘っているのだ。

家に着くと、「お邪魔しますっ」と礼儀よく挨拶の声をあげて、ユーリはまず洗面所へ向かった。外から帰ったら、まず手を洗うのは基本だ。勝手知ったるコンラッドの家、洗面所もタオルの場所もよく分かっている。

コンラッドはそんなユーリの後姿を眺めてから居間に向かい、台所で手を洗った。そしてお茶を沸かす準備をする。

にんじんクッキーを棚から取り出したところで、手を綺麗にしたユーリが居間のドアを開け、ぱあっと笑顔になった。

 

「おれ、そのクッキー大好物なんだ!」

 

もちろん、知っての上で準備したものだ。

 

「お茶が沸くまで待ってくださいね。ああ、ユーリはミルクの方が好きかな」

「うん。でもコンラッドのお茶が準備できるまで待つから、一緒に食べようっ」

 

ユーリがにこにこと笑い、コンラッドもまた目を細めた。こういうところが、なんとも愛しい。

 

「じゃあ、適当にそこの椅子に座って……」

 

言いかけて、何かに気付いたようにコンラッドは言葉を切った。

ユーリが、何?と首を傾げると、コンラッドは子を見守る親のように笑った。

 

「耳がね、」

 

コンラッドは机にクッキーを置くと、ユーリの正面に立ち、そっと黒耳を撫で付けた。

 

「んっ」

「かなり、毛が乱れてる」

 

草原を駆け回ったのだから当然だが、せっかくの美しい黒が勿体ないことになっている。

うさぎの体にも目をやれば、手だけは綺麗になっているものの、体は森で跳ね回った時のまま。汚れているというほどではないが、綺麗な毛並みがぼさぼさだ。

 

そんなうさぎを見るうちに、ふと、今まで意識の外にあったライオンの本能がコンラッドの中に蘇った。

どうしていきなり、そんな欲望が沸き上がってきたのかは分からない。コンラッドは少しばかり逡巡したが、目の前のうさぎの愛くるしさに本能の衝動は増すばかりだ。

 

――― …まぁいいか。お茶が沸くまでに時間もあることだし。

 

コンラッドは結局、その本能に従うことにした。

 

「ユーリ、こちらへおいで」

「え? ……ぅわッ!?」

 

コンラッドに腕を引かれるまま身を任せたユーリは、急に横抱きにされ、わたわたと慌てた。

獅子はそんなうさぎの様子に穏やかに微笑みながら、柔らかく大きなソファにユーリを横たえた。

 

「へ……、何?」

「じっとして。体を綺麗にしますからね」

 

何がなんだか分からず、ユーリはとりあえず起き上がろうとするが、のしかかってきた獅子に遮られてしまう。

その表情はいつも通り優しく、ユーリを安心させようとする。だけど慣れない体勢はやっぱり落ち着かなくて、ユーリはつい不安げに身動いでしまう。

 

「な、何? コンラッ……ひぁっ」

 

コンラッドの舌が、首筋に触れた。

くすぐったさにビクン跳ねそうになるユーリの体を、獅子は強く押さえ込んで固定する。

 

「あ……ん、……アッ」

 

首筋から耳の下へ、そしてまた首筋へ。生温かいライオンの舌は、何度かそこを往復した。

……舐められている、ただそれだけのこと。少しだけ声が上がってしまうのが恥ずかしいけれど、それ以上の害はないはずの行為。なのにうさぎは何故か、本能的な危機感に襲われた。

 

「コンラッド、何? なに、してんの」

「ん? うん、大丈夫ですよ。怖くないから、じっとね」

 

コンラッドは宥めるように囁くばかりで、行為の意味を教えてはくれない。

 

「う……あ、ひぁッ」

 

不意に、耳を唇で食まれ、ユーリは小さく悲鳴を上げた。

ライオンの舌はそのまま、うさぎの敏感な箇所である耳を角度を変えつつ舐め続けた。そうしてユーリの気が逸れている隙に、片手でユーリの服を剥き上げ、腹から胸元までを外気に晒させた。

顕になった素肌をライオンの指の腹が辿ると、ユーリの体はビクビクと反応した。

 

「んぅ……」

 

うさぎの両耳を充分に舐め尽くした舌は、次に、露出した小さな赤い二つの尖りに狙いを定めた。

 

「ッう、んぁっ!?」

 

普段は着衣に隠され刺激に慣れない箇所を這い始めた舌に、ユーリは思わず身を捩る。

 

「やっ……は、なんで、そんな、とこ…!」

「……暴れないで」

「ん、ん〜……ッ」

 

まず襲われたのは左胸。

先端を軽く吸われ、刺激でピンと立ち上がったそこを潰すようにくにくにと舌で揉まれる。

 

「あ、ああぅッ」

 

ユーリの両腕は、暴れる前に、コンラッドの両手でソファへと押さえ込まれてしまっている。

両足は開かされた上コンラッドの脚が絡んでいて、うまく動かせない。

僅かに身を捩るしか抵抗の術を持たないユーリは、ただ耐え続けるしかない。

 

「あふ、……あ、…ん……、っ、ア、」

 

くるくると円を描いて乳輪を優しく舐め、時折、先端を舌で引っ掻く。

巧みなタイミングで、その小さな刺激と大きな刺激を繰り返されて、ユーリは断続的に甘い声を上げさせられる。

 

「あっ……く、や……ッ」

「ユーリ? ……ああ、こういうのは辛いかな」

 

ライオンの舌はユーリの肌をゆっくりと滑って移動し、次に右胸へと辿り着いた。

 

「っ……」

 

瞬間、身構えたユーリだったが、今度はさほどの刺激は与えられなかった。

ライオンはその広い舌の面積でユーリの右胸を覆うようにし、軽く舌を揺らすのみに留めたのだった。

 

「ん……、……はぁ………」

 

淡い、動き。

予想の範囲内に収まる刺激だけを与えられるうちに、ユーリも落ち着きを取り戻してきた。少しずつ、考える余裕もできてくる。

 

(…なんでおれ、こんなことされてんの?)

 

いや、それ以前の問題として、“こんなこと”とは どんなことだろう。今されている、この行為は何?

コンラッドがしていることといえば、ただ舐めることだけだ。ちろちろと舐めて、舐めて、たまに少しだけ吸い上げて、また舐める。

ライオンは、ユーリが落ち着いてきたのを確認すると、胸から少しずつ腹側へと舌の位置をずらしていった。

 

「……んッ、………」

 

胸先を慈しんだのと同じ丹念さで、腹全体を舐め尽くすように蠢きながら下降する舌。

ねっとりと湿った温かさが、ユーリの素肌に直に触れ、肌をくすぐっては離れていく。

強すぎず、弱すぎずの刺激は、ユーリにとってまるで未知のもので、不安ばかりを煽る。けれど逃げようとする気力は何故か潰えて、体の力が抜けていく。このままじゃヤバい、と思う。けれどライオンの巧みな舌使いは麻薬のように、ユーリの全身から抵抗を奪ってしまう。

 

「っや……ぁ」

 

不意に、へその窪みを舌がクリクリとくすぐった。

敏感でない場所から敏感な場所へと急に移った刺激に、ユーリは体を震わせて目をきつく閉じる。

……あまりにも無防備なうさぎは、未だ気付いていない。舌は、少しずつ降りているのだ。だとすれば、次は?

 

「!? あ……ッ!!」

 

冷たい外気がすっと腰に触れる感触に慌てて目を開けると、ライオンの手がユーリのズボンを抜き取っているところだった。

 

「な……んで、……なんで、コンラッド…っ」

「……最後までさせて、ユーリ」

 

幸いにも下着を取られることはなかったが、それでも下半身の大部分は露出する。

コンラッドはユーリの右足を取り、太腿から膝へ向かって、少しずつ舐め尽くし始めた。

 

ユーリは、焦る頭でもう一度、先ほどの疑問を必死に考える。

おれ、なんでこんなことされてんの? そもそも、この行為は何?

なんでコンラッドは、おれを舐めるの?

考えている間にも、右足には柔らかく温かい舌の感触が触れては離れて、ユーリをますます混乱の極地へ追い込む。

……今なら、右足以外は全く拘束されていない。思いきり暴れれば、一時は逃げられるかもしれない。けれど運動能力の差を考えれば、すぐに再び捕まるのは目に見えている。

 

ユーリが考えごとをしている間にも、ライオンの舌はユーリの右足首までを征服し、とうとう靴下を脱がせてしまった。

そうしてコンラッドは、現れた五本の足指を愛しそうに眺めた後、最も小さな小指を口に含んだのだった。

 

「ひぁ……!」

 

丁寧に時間をかけてたっぷりと、ライオンはうさぎの足小指をしゃぶった。

全体をほぐすように舌で揉み、時折歯を立てて、軽い痛みにビクンとユーリの足が跳ねるのを楽しむ。

そうしてしつこいほどに舐め回してから、また次の指を口に含ませる。

 

仰向けで足を持ち上げられているユーリには、その行為がはっきりと目に入ってしまう。

濡れて淡く光る指と、味わうようなライオンの表情を目にして、ようやくユーリはある結論に思い至った。

 

……このライオンは、うさぎを食べようとしているのだ。

 

考えてみれば、今はおやつの時間だ。

ユーリのおやつは、にんじんクッキーだ。だけどコンラッドのおやつは、ユーリだったのだ。

ユーリは信じられない思いでいっぱいだった。だってコンラッドはいつもユーリを大切にしてくれていたのだ。

けれど現実に、コンラッドはこんなにもユーリの身体を舐めつくしている。じっくりと味見してから、パクンと一口で食べてしまうつもりなのだと、そう考えれば辻褄が合う。

 

ユーリの身体の震えが増すが、滅多に見られない素足に集中しているコンラッドは気付かない。

ライオンはユーリの右足の指全てをすっかり舐め尽くすと、次は左足へと舌を移動させることにした。

ただし、空中を移動するわけではない。ユーリの身体に沿って、左足へと移動するのだ。つまりは足の親指の先に舌を当て、ゆっくりと足首へ、膝へ、太腿へ。

そのまま左の太腿へ移動する最短距離の部分は、未だ下着に覆われている。

布地の上から舐めて移動しようか、それとも遠回りをしようか。考えながらコンラッドは、下着のギリギリのライン…右足の付け根を、触れるか触れないかのラインで つぅっと舌でなぞった。

 

「…え…っく、ひ……っく」

 

不意に、頭上でしゃくり上げるような声が聞こえ、コンラッドは弾かれたように顔を上げた。

そして、現状に青褪めた。愛しい愛しい黒うさぎが、ぽろぽろと涙を零している。

 

「ユーリ!? ユーリ、どうしましたユーリ、どうして……」

 

コンラッドには、ユーリがすすり泣く理由が本当に分からなかった。

泣かれるようなことをした覚えはない。だとすれば、どこか痛むのか。

とにかく落ち着かせようと、コンラッドは右手をユーリの頬に添え、そっと涙を拭った。

 

「どうして、泣いてるんです。教えて、ユーリ」

「…っく、だ……って、だって……っ」

「うん?」

「おれ……っ、おれ、コンラッドのおやつに、なっちゃうんだぁ……ッ」

 

そこまで言いきって、ユーリは更に涙の量を増やした。

驚いたのはコンラッドだ。

 

「おれ、コンラッドのこと…ひっく……すき、だから、我慢、でもッ」

「待って、待ってユーリ、どうして突然そんな考えに」

「ひ……ッく、だって、体中、なめて……っ」

「え、でもそれは……」

 

 

 

 

■グルーミング■

 

舐めるなどして、体を綺麗にする行動。毛づくろい。

自分の体に対してする場合と、仲間動物の体に対してする場合とがある。

 

仲間動物の体にグルーミングをするのは、重要なコミュニケーション行動の一つである。

ただし動物種によって、その重要度や頻度は異なる。

ライオンでの仲間同士のグルーミングは、あまり頻繁ではないが習慣的に行われている。

うさぎが仲間同士でグルーミングする習慣は、現在、廃れている。

 

 

 

 

 

 

「……すみませんでした。まさか、ご存知ないとは思わなくて……」

 

ライオンであるコンラッドは、日常生活で滅多に行わないとはいえ、仲間に対してグルーミングする本能は持っている。

だが、グルーミングし合う経験を持たないうさぎのユーリは、体を舐められる意味を知らなかったのだ。

 

「じゃあおれ、コンラッドのおやつになるわけじゃないんだ?」

 

泣き止みはしたものの、まだ目を潤ませたままのユーリが問う。

コンラッドは、安心させるように優しく笑い、ユーリの頭を撫ぜた。

 

「当たり前です。食べるにしても、間食扱いだなんてもったいないことをするはずがありません」

「そっか……良かったぁ」

 

ほっとして恥ずかしそうに笑うユーリは、まだズボンも穿かないままだ。

……そんな姿を見せられれば、当然、ライオンの本能はまたむくむくと立ち上がる。

 

「…ユーリ」

「何?」

 

今すぐにでも、中断されたグルーミングの続きをしたい気持ちに駆られるが、それはユーリの精神に多大な負担をかけてしまうだろう。

目の毒になる部分を隠すためズボンを穿かせてやりながら、コンラッドは、せめて次回の予約を取ることにした。

 

「俺は獅子ですから、コミュニケーションとしてのグルーミングをつい求めてしまうんです。また今度、最後までさせてくれませんか」

 

靴下まで履かせてもらった黒うさぎは、躊躇いもせず頷いた。

 

「大丈夫だよっ、今日は何されてるのか分かんないから怖かっただけだし。ぐるーみんぐって分かってりゃ平気」

 

それに、それでコンラッドともっと仲良くなれるなら、その方がいい。

コンラッドはそれを聞くと嬉しそうに微笑んだ。

 

「お茶はもう沸いてますね。すぐ、おやつにしましょう」

「クッキーの後は、キャッチボールしようなっ!」

 

 

 

……ライオン同士でのグルーミング習慣も廃れがちだから忘れていたが、

そういえば、グルーミングでは乳首や足の指までは舐めなかったような。

 

ふと思い出しかけたことを、コンラッドはとりあえず記憶の底に封印した。