暫くじっと耐えていると、不意に胸をいじる指が離れていった。

ほっとしたのも束の間、次はズボンに手をかけられて、今度こそおれは暴れた。

 

「嫌……ッ、嫌だぁっ」

 

全部脱がされてしまったら終わりだ、本当に食べられてしまう。

けれど足をバタつかせると、かえってズボンは脱げていってしまう。かといって大人しくしていれば、ライオンの手で脱がされてしまうだけ。

 

「コン…ラッド、あんた……どうしちゃったんだよ…ッ」

「俺のことは、見知らぬ獣だと思ってください」

 

多少手荒にズボンを引き抜かれ、おれの体には下着と靴下だけが残った。しかも下着の紐は、暴れたせいで既に解けかけている。

 

「ッあ……、は、」

 

下着の上から、指でゆっくりと形をなぞられた。

 

「可愛らしいですね。もう、こんなにして」

「な…んで、コンラッ…」

「名前を呼んでも無駄です。言ったでしょう、俺を見知らぬ獣だと思ってくださいと」

 

とうとう、下着まで奪われてしまった。

逃げ出そうとしてめちゃくちゃに暴れるおれをやすやすと抑え込んで、知らない獣の唇はおれの耳を食んだ。

 

「あぁ……ッ、ふぁっ」

 

耳の内へと舌を挿し入れられ、かき回される。ピチャピチャと水音が、耳の奥から響いてくる。

コンラッドの肩を押し返そうと必死になっていた左手から、徐々に力が抜けていった。体が震えて、刺激に従順になる。

 

「…もっと、暴れて。でないと」

 

食べられてしまいますよ?

耳に息を吹き込むように囁かれて、背筋がぞくりと震える。わけの分からない刺激に、体は戸惑うばかりで言うことをきかない。抵抗することすら、もう。

 

「暴れないのなら…少し、怖いことをしましょうか」

「……ッ!? や…っ」

 

下腹へと移動したライオンの指の一本が、とんでもない場所から、おれの中へと入ってきた。

 

「なんで…なんで、そんな、とこ……ッ!」

「嫌でしょう。さあ、逃げてみてください」

 

そう言われても、足は大きく広げられていて彼を蹴り上げることもできない。右手首もシーツにめり込むほど強く抑えられている。

せめて左手でドンドンと彼の肩を叩いたけれど、ビクともしなかった。

 

「ひ…っぁ、あッ」

 

中で、指が動く。おれの内部を把握しようとするように円を描かれて、ビクビクと足が跳ねた。

腰を逃がそうと身を捩ると、ますます中が擦れてしまう。

 

「ほら、逃げるのが遅いから…指が増えてしまいますよ」

「ひ……ッ!?」

 

捻じ込むように強引に、二本目の指が入ってきた。

それだけでも信じられないのに、更に二本が中でバラバラに動くのが分かって、おれはパニック状態に陥った。手足をめちゃくちゃに動かして、自分でも意味の分からない何かを叫ぶ。そうするうちに、もう逃げられないのだと体が理解し、次第に抵抗をやめて震え始めた。

鼓動は早鐘を打ち、唇すらも意思ではどうにもならないレベルで震えている。

おれの中を指で侵しつつ、コンラッドはおれの耳をまた一舐めしてから、囁くように低く言った。

 

「…おいしそうだ」

――――― ……ッ!!」

 

すぐ耳元から、ライオンの舌舐めずりが聞こえた。

食べられる。本当に、食べられちゃう。

緊張で息がはぁはぁと荒くなる。

彼を見知らぬ獣だと思えと、そう言われた。知らない獣にこんなことをされたら、おれは。

 

「……、…ラッド……ッ」

 

おれに出来る限りの手段が尽きたら、後はもう名前を呼ぶしかない。

 

「コンラ…っ、コン、ラッド―――― …ッ」

 

いつもおれを大切に扱ってくれるライオンの名前。強い、ライオンの名前。

守られるなんて嫌だと言いながら、だけどすぐピンチに陥るおれに、いつも手を差し伸べてくれるコンラッド。

こんな時は絶対駆けつけてくれるはずなんだ。

 

「駄目です。何度も言ったはずだ、知らない獣に襲われていると思ってく……」

 

見当違いなことを言いかけて、コンラッドはふと口を噤んだ。

そうして、親指でおれの目じりをそっと撫でた。

 

「……泣かせるつもりは、なかったんですが。すみません、脅しすぎましたね」

 

中で暴れていた指がピタリと静まり、穏やかにおれを解放した。

おれは、ようやく自由にされた両手で顔を覆い、体を横にした。みっともなくしゃくり上げて、小さく嗚咽を漏らす。

おれだって、泣くつもりなんかなかったのに。

 

「悪乗りしすぎました、謝りますから。どうか…落ち着いて」

 

後ろから包むように抱かれ、あやすように背中を撫でられて、少しずつ動悸が収まってくる。

いつものコンラッドだ。彼がいれば、おれは大丈夫。

酷いことをされたと思うけれど、まずは安堵と嬉しさが先に立って、恨みごとを言う気にはならなかった。

コンラッドがどんなに必死で宥めても簡単には止まらない涙が、一応の報復だ。らしくなく焦った様子のコンラッドは、ちょっと面白い。

涙が自然に止まる頃になって、コンラッドはおれを仰向けにし、顔を覆う両手を優しく剥がした。

視線が合うのが恥ずかしくて目を閉じると、その端を舌でそっと掬われた。なんだか安心して。

 

「……、あ…?」

 

安心したはずなのに、体の熱が引かない。

困った。火照ったように体が疼くこの感覚には、どう収拾を付ければいいんだろう。

おれの戸惑う様子にコンラッドはすぐ気付いたらしく、「俺のせいですね。楽にするからじっとして」と言ってくれた。

けれど、ほっとして体を預けたら……コンラッドはいきなり、おれの足を割ったのだった。

 

「ッ!? なんで…っ」

 

慌てて暴れるおれをよそに、コンラッドはおれのそれを軽く握るように触ってくる。

 

「コンラッ…」

「食べたりしませんよ。楽にして、俺に体を預けて」

「…あ……っ」

 

芯を上下に動かされて、快感のようなものがゆっくり背筋を伝い、思考を乱された。

コンラッドはおれの両手を取り、その背へと回させた。まだ不安はあったけれど、彼を信じてその肩へ縋りついた。

 

「ん…んぁ……ッあ」

 

断続的に、よく分からない声が口から漏れ出す。

おれを扱う手の動きは休めないまま、コンラッドは何度もおれの目じりやこめかみを舐めた。それがおれの涙を拭う行為なのだと、しばらくして気付いた。

少し泣いただけなんだから、そんなに気にしなくてもいいのに。

 

「あっ…うぁ、やッ」

 

刺激に慣れ始めた頃に、突然、先端を親指で揉み擦られた。

痛みではない何かを煽られて、体がますます熱くなる。

どうして。楽にしてくれるって言ったのに。

 

「コン…ラッド、これ、余計に…熱……ッ」

「もう少しで、良くなりますから…」

 

括れのあたりを何度も何度も指で強く往復されて、体が追い詰められていく。

わけもなく息が弾んで、酸欠みたいに喘いだ。体の力が抜けて、彼の肩から手がずり落ちそうになる。

 

「あぁ…っん、ア」

 

更におれを限界へと追いやるように、舌で首筋をくすぐられる。

何かの波に飲まれそうな気がして、おれはただキツく目を閉じた。

 

「ひ……あッ、んぁ――――― …ッあ……!!」

 

その瞬間は、体を大きくしならせ、彼の肩に強く縋みついて迎えた。

 

 

 

 

 

 

「…悪い獣に捕まったら、あれ以上に嬲られて、食べられてしまうんですからね」

 

諭すように言いながら、コンラッドはおれの髪をそっと梳いた。

おれはと言えば、まだ何も着ないままで無様にベッドに転がっている。もうヘトヘトで、起き上がる気力も沸かない。

 

「少しは、危機感を持ってもらえました?」

「…持ったよ、そりゃ……」

 

それにしても厳しめのお灸だった。本気で、怖かったし。

…でも、外を出歩くのはやめられない。ぴょんぴょん自由に跳ね回るあの楽しさと言ったらないし、筋肉だって付けたいのだ。おれは耳を垂れ、しゅんと項垂れた。

コンラッドの手が、もう一度おれの髪を梳く。

 

「出掛けるときに一言、俺に声をかけてくださればいいんですよ」

「コンラッド、忙しいんじゃん。おれなんかのために連れ回せないよ」

「遠慮しないで。あなたが他の獣に食べられてしまうことの方が、俺には大問題です」

「でも、おれはあんたに何も返してあげられないのに」

「対価を望むわけじゃありませんよ」

「おれは…気になるよ」

 

コンラッドは少し困ったように顎へ手をやり、逡巡した。

が、不意に何かを思いついたらしくにこりと微笑い、おれの片頬を手で包んだ。

そして、信じられないことを口にしたのだった。

 

「そうですね。ではもう少し育ったら、俺にあなたを食べさせてください」

 

「……え」

「今日少し齧ってみたら、なかなかおいしかったので」

 

何ソレ。おれを他の獣に食べられないようにガードしといて、コンラッド自身がおれを食べるの?

まさかおれ、非常食!?

驚きを通り越して呆気に取られて彼を見上げるおれを見て、コンラッドはまた笑った。

 

「…冗談ですよ」

 

手がおれから離れ、コンラッドが飲み物を取りに部屋を出た頃にようやく、話を逸らすために揶揄われただけだと気付いた。

…いや、でも…本当に冗談なのかな?

 

彼は彼で、外の獣ほどではないにしろ危険な気がするおれだった。