心地良い気怠さに、ぐったりと力を抜く。

雲の上に揺蕩うような、持続的で実体のない快感が全身を包んでいる。

 

「ユーリ。大丈夫ですか」

 

ぼんやりと目を開けると、おれの放ったものを全て飲み込んだらしいコンラッドの顔。

穏やかな表情で、大丈夫か、と尋ねている。

……おれ、大丈夫なのかな。終わった、のかな?

安堵して静かに息を吐いた、その時。

 

「あ……っ!?」

 

トクンと、体の内側が脈打って。再び、熱がじわじわと下腹を犯していった。

うそ。さっき達したばかりなのに。触れられてもいないのに。

 

「う……、〜ッ」

「…ユーリ……」

 

すぐに半勃ちになったそこに気付き、コンラッドが複雑そうな表情を浮かべる。

けれど本当に辛いのは、見た目で分かるそこじゃない。後ろ、だった。

精を解放して楽になったばかりの部位より、後ろはずっとヤバい。中で小さな何かが無数にざわめいているような、どうにもならないもどかしさが続いている。

どうすれば落ち着くのかは、体が知っている。何かを挿れればいいのだ。

なんでもいい、挿れてほしい。挿れて、この疼きを止めてほしい。

 

「媚薬のせい、ですね。……じっとして…」

「ッ!? い、嫌だッ!」

 

コンラッドの手は、おれの半勃ち部分へと伸ばされた。

そっちじゃない。そっちを弄られても、後ろが余計に疼いて辛いだけだ。

おれは身を捩ってコンラッドの手を逃れようとした。

 

「駄目、駄…目ぇッ、やめ……っ!」

「ユーリ? ユーリ、俺に任せて」

「ち……がう、嫌だっ、違うッ」

「……ユーリ?」

 

おれの脚を開かせようとする手は止まったけれど、コンラッドはおれを捕まえたまま放してはくれない。

もう放っておいてほしいのに。「いいから一人にしてくれ」と暴れても、「こんな状態のあなたを一人になんて出来ません」と言われるばかり。

そうこうしている間にも、体は更に火照っていく。どうしよう。何か、何か欲しい。

 

コンラッドをこの部屋から追い出せたとしても、こんな力の入らない体じゃ、自分で自分の指を挿れるのは無理だ。

じゃあいっそ、コンラッドに頼んでなんとかしてもらうのが最善なんだろうか。

 

荒い息を理性で押し殺しながら、おれはコンラッドを見上げた。涙で滲んでよく見えないけれど、彼がこちらを心配してくれているのは雰囲気で分かる。

きっと、頼めばしてくれる。

 

「…欲…し……」

「え?」

 

言えば、してもらえる。その瞬間を想像しただけで、腰が疼いた。痒みにも似た感覚が内部で増す。もう、羞恥なんかに構ってはいられない。

おれはきつく目を閉じ、コンラッドから顔を逸らせて声を絞り出した。

 

「後ろに、……欲しぃ……ッ」

 

数秒の間の後、コンラッドの呟く声が聞こえた。どんな表情で言ったのかは分からない。

 

「ずいぶんと…強力な媚薬を飲まれたんですね」

 

おれは裏返され、四つん這いの体勢を取らされた。

触れられる前からヒクつき始めているそこを間近で見られてしまう恥辱よりも、ようやく挿れてもらえる期待感の方が大きかった。

中が痺れるみたいにピリピリして、何かを受け入れたくて堪らない。

 

「早く、…してっ、早くっ」

「ちゃんと、慣らしてからです」

「あっ…? ……ッ、んぅ…う、」

 

何か、湿ったものがそこへ触れた。

生温かくて柔らかい。そこを解すように、或いはくすぐるように触れてくるそれがなんなのか分からないまま、おれは刺激のもどかしさに震えた。

あと少しそれが奥へ進んでくれれば、満たされるのに。

半端に入り口ばかりを責められても体は焦れるばかりで、つい腰が揺れそうになる。

早く中に欲しい。

焦れったくて、何をしているのか確かめようと首を後ろへ回し、おれはようやくそれを理解した。

 

「!? やっ…そんな……、そん…なの……!」

 

おれを慣らしていたのは、舌、だった。

自覚した瞬間、忘れていた羞恥心が一気に蘇ってきた。そんな場所を、調べられている。視覚だけでなく味覚で、コンラッドに確認されている。

媚薬のせいではなく、体がかぁっと熱くなる。

 

「なんでっ……い、嫌だっ、ぁッ」

「……こうするのが一番、早く慣らせますから」

「やっ…んぅ、う……ッあ」

 

何もかもが辛い。

舌でそんな場所をくすぐられることで、精神的に追い詰められる。入り口ばかりを刺激されて内部には何ももらえず、肉体的にも追い詰められる。

ぎゅっと瞳を閉じると、透明な涙が溢れた。下半身もすっかり張り詰めて熱く、白い涙を零している。

 

「い、いれ、て……、……挿れて……ッ」

 

耐えるため、シーツを握り締めたいのに、力の入らない掌はそんなことすら出来ない。

体が熱い。もどかしい。早く、中に欲しい。助けてほしい。

 

「早く…はやく、挿れてッ、……指……いれてよぉ……っ」

 

みっともない涙声で叫んだ。

今のこの状態から逃れられるなら、恥ずかしい台詞も恥ずかしくはない気がした。

 

「指、いれて…いれてぇっ、コンラッ…――― ぁ、ん、ふぁっ」

 

叫びに応えるように、何かが入ってきた。

温かくて滑らかで、柔らかなそれ。指ではない何かだと、すぐに分かった。

 

さっきまでおれを慣らしていたものが入ってきたのだとは、遅れて気が付いた。

 

「そん、な、…ぁふ……ッ、―――― …アッ、う、ああぁッ」

 

体は残酷なほどに従順で、ようやく与えられた快楽を全身で受け入れ、思考をあやふやにさせる。けれど、そうしてぼやけた思考の片隅で、理性がこの現実を拒んでいる。

だって、舌だよ。そんなものがおれの中に来てるだなんて。

 

「ぁ……は、ふ、…うぅ……、…ッ」

 

指の硬さとは違う柔らかな感触は、それだけで存在感があった。

しかも舌の性質上、それが内部で蠢く度に、湿った入り口がくすぐられるような感触に襲われる。

けれど抗議の声は出せない。

 

―――― 気持ち悦すぎる。

 

泣き叫ぶような激しい快楽ではなく、静かに全身を覆い尽くして優しく痺れさせるような淡い快楽。

浅い吐息に、甘い喘ぎが混じる。

 

「んっ……ふ、ぅ…」

 

目を閉じてしまえば、それがコンラッドの舌なのだという現実も意識の外へ忘れ去られ、ただ甘い幸せに全身を預けるばかりになる。

中を擦る動きはほんのり淡く、もどかしいけれど安心できる。

それが出入りする度に響く卑猥な音も、もう気にならない。恍惚の境地だ。

思考には深い霧がかかり、世界が緩く回る。このまま溶けてしまいそう。

 

「ん……は、ぁ、―――――― …もっと………」

 

望みを口にしたのは、完全に無意識だった。

コンラッドはそれを聞き届けたのか、舌を引き抜き、代わりに指二本をそこへ差し入れた。

 

「ひぁっ…、ン……ッ」

「痛みますか」

 

おれは、ふるふると首を振った。痛いどころか。

指はしばらく抽挿を繰り返した後、おれの内部の敏感な場所を探り始めた。

 

「あッうあぁ、だ、いぁっ」

 

されていることはいつもと変わらないはずなのに、刺激の大きさが違う。そのポイントを揉み擦られる度、目の前がチカチカと白くなった。

コンラッドが腰を支えていなければ、おれの体はとっくに崩れている。

肘から掌は無機物のように無力で、おれは片頬をシーツに押し付けている状態だ。閉じることを忘れた口からは、間抜けな声がだだ漏れた。

 

「あ―― …っ、んァ、あ、あーっ、あ――――― ……ッ」

 

緩い射精感が下腹を襲う。

……おれ、後ろだけでイっちゃうかも。ぼんやりぼやけた頭で、そんなことを思った。

理性はとっくに夢の中。他者から見れば、普段は双黒だなんだと讃えられるおれの両目も虚ろだろうと思う。ただおれの全ては、コンラッドの指だけに支配されていた。おれを泣かせるも喘がせるも、体を跳ねさせるもイかせるも、全てコンラッドの指の自由。今おれの体は、この指にならいくらでも従う。

 

「っあ、……ア、はぁ、あッあ、ああぁっ」

 

イく。

おれは波に身を預けて、訪れる絶頂を期待した。

昂ぶるおれのものにこのタイミングで添えられた大きな掌は、おれがイくのを補助してくれるものだと信じて疑わなかった。

 

けれど掌は、おれを裏切った。

 

「んぅあ、あッ!?」

 

突然、痛覚と共に波が塞き止められる。

 

一瞬、何が起きたのか分からなかった。

限界を迎え損なった苦しさで現実に引き戻され、身を捩る。そうしてようやく、コンラッドの手がおれの根元をキツく締め付けているのに気付いた。

 

「な……んで、」

 

どうして。楽にしてくれるんじゃなかったのかよ。

ずっと持続していた夢の快楽を止められ、非難するというよりただ呆然とするおれに、コンラッドは優しく囁きかけた。

 

「そういえば、答えをもらっていなかったなと思い出しまして」

「何を……」

「媚薬なんか、何故口にする羽目になったんです?」

―――― ……!」

 

何度か使われた手段だ。言うまで、イかせてくれない。

体は確かに辛くて、助けてくれるなら大抵のことには従ってしまいそうな気がする。でも言えねーだろ、そんな……コンラッドに飲ませるために媚薬を買いました、でも間違えておれが飲みましたーなんて。

 

「媚薬、しかもこんな一般には流通していない強力なものを、どこで口にしたんです。昼間、誰かに飲まされた? それとも」

「嫌……だ。言えない…」

「……困りましたね」

 

ぎゅっと唇を噛み締める。

別に平気だ。さっき一度達したおかげか、今の状態はそれほど辛くはない。深く息を吐いて熱を押し出して、おれは自分をごまかす。

こんな不利な体勢でも強情なおれに呆れたのか、コンラッドは溜め息を吐いた。

 

「そうですね……じゃあ」

 

内部で指が軽く動き、おれはピクリと震えた。

きっとまた、そこを苛めておれを追い詰めるつもりなのだろう。

おれは唇を噛み締め、覚悟を決めた。そんなところを弄られたぐらいじゃ、絶対に口を割ったりしない。

 

けれどコンラッドは、予想外の提案をした。

 

「じゃあ、指を抜いてしまいましょうか」

「えっ? あ…、あぁ……ッ!?」

 

焦らすようにゆっくりと、指が抜けていく。

普段なら、その行為に辛いところはない。むしろ、異物が内部から抜けたことで体は安堵するはずだ。

 

普段なら。

 

「あっ……ふ、あ…っ」

 

媚薬で昂ぶっている体にとっては、逆だった。

先ほど達する直前に止められたせいで、中の疼きは全く収拾が付いていない。その状態で、中を満たしてくれていた指もなくなってしまったら。

 

「うぁ、あ……ッ、んぅ―――― …っ」

 

内部がじわじわと疼き、何かの侵入を欲し始める。痒みに似たもどかしさが、強烈に下半身を支配する。

さっき挿入をねだってしまった時よりも、体の欲求は激しかった。指で満たされる事でどんなに楽になれるか、もう体は知ってしまったのだ。

 

挿れてほしい。楽にしてほしい。

 

僅かでも刺激を得ようと、足を閉じて擦り合わせ、腰を揺らした。当たり前だけれど、こんな程度じゃ一時凌ぎにもならなかった。

 

「う……、あぅ…」

「話してくれますか。媚薬を飲んだ状況を」

「……ッ、嫌…だ……っ」

 

白状するまで、徹底的におれを放置するつもりなのか。

でも、絶対言えない。ここまできたら、意地も入ってる。

どうせ、薬の効果が切れてしまえば辛くなくなるんだ。放っておかれるなら好都合じゃないか、薬が切れるまでただじっと待てばいいんだから。……そう思い込んで耐えようとは思うものの、やっぱり、辛い。細い触手が何本も、中を淡くくすぐっているみたいだ。何かもっと存在感のあるもので触れてほしい。鎮めてほしい。

結局おれは耐え切れず、四つん這いのまま、後ろへ右手を伸ばした。せめて人差し指だけでも、少しだけでも入らないかと期待したけれど、この体勢では届かなかった。この力の入らない左腕が上体を支えられれば、届くのに。

 

「ッひぁ!?」

 

突然、背後から耳を噛まれた。

体が、意思とは無関係にビクリと反応する。そんなに敏感になってしまっていることが、恥ずかしくて堪らない。

 

「な、何す……ッ」

「あまり長くあなたを苦しめるのは、俺としても心苦しいので。早めに、話す気になってもらおうかなと」

「えっ……あ、うァッ!?」

 

コンラッドの両手が、おれの両胸をきゅっと摘み上げた。

瞬間、耳を噛まれた時よりもっと、体が大きく跳ね上がった。

 

「あっ……ひ、い、嫌ッ、……や、ああぁッ」

 

指はそのまま胸先に留まり、執拗にそこを愛撫し始めた。

指の腹で優しく撫でたり、爪でカリカリと引っ掻いたり、隙を見て強く捻り上げたりと、様々な刺激が左右別々に施される。その合間にも、首から背中にかけてを舌が這う。

コンラッドの手を掴み、身を捩って逃げようともがきながら、おれは何度も何度も悲鳴を上げた。熱い。どんどん熱くなる。熱くなるほど内部の疼きが激しくなる。なのに、何ももらえない。

中だけじゃない、前も辛い。刺激の大きさはといえばもう、胸だけでイってしまうのではないかと思うほど。なのにどんなに期待しても、最後の決定打が足りず、どうしてもイけない。

それにもし達したとしても、きっと体は楽にはならない。なにしろ、終わらない波のような悦楽が全身を駆け巡っているのだ。

 

いれて。早くいれて。もうおれ、変になっちゃうよ。

 

ぼろぼろと涙が零れる。息が荒すぎて、酸欠で苦しい。

 

「も、や……ッ、た……すけてッ」

「……意地悪しているわけじゃないんですよ」

 

おれを弄る指の動きを一度止めて、コンラッドは窘めるように囁いた。

 

「こんなに強力な作用のある薬は、媚薬という名の毒です。あなたが毒を口にしたルートを、俺は把握しておかなくては」

「……ど、く………」

 

毒。

コンラッドは、毒を入手した経緯を知りたがっているだけ。

おれは毒を摂取した事情をコンラッドに話すだけ。

そう考えたら、話しちゃってもいいんじゃないかって気分になってきた。本当はもっといろいろ考えなきゃいけないはずだけど、思考はもう働かない。

 

「あッ!? ん、あぅッ、やああぁっ」

 

コンラッドの指の動きが再開し、またもおれを苛み始める。強く刺激するわけではなく、両側とも優しく淡く宥めるように丁寧に擦られて、全身が得体の知れないもどかしさに襲われた。

 

「は……ふ、あぁ、アッ、やめ…ぇっ」

「ユーリ。話してくれますね」

 

身も世もなく、コクコクと頷いた。

もうどうでも良かった。おれは毒の話をするだけ、それで楽にしてもらえるのならそれでいい。

 

「約束ですよ。終わったら、話してくださいね」

「話す、からッ、は…はやく……、…ッあ、あ……!」

 

昂ぶって張り詰めた屹立に、コンラッドの手が触れた。それはおれを焦らしたりはせず、ただ丁寧に優しく、絶頂へと導いてくれる。すぐに、イく少し手前の気持ちいい段階まで追いやられて、おれの飢えの半分ほどはその快楽で満たされた。

ようやく、楽にしてもらえる。

おれは安心感から、貪欲にも更なる望みを口にする。

 

「後ろも、……欲し、いっ」

 

コンラッドは、優しくそれを叶えてくれる。

 

「ええ。すぐに」

「…あ………」

 

充てがわれたのは指ではなく、コンラッドの熱だった。

おれは衝撃に備えて、目をキツく閉じ、頬をシーツに押し付ける。

 

「……挿れますよ」

「うん……、っふ、あ……ッあ!? ア、ああぁッ」

 

背後からの侵入が始まると同時に、前を扱う手の動きが速まった。

亀頭を重点的に嬲られて、一気に絶頂が近付く。同時に、激しく疼いて侵入を望み続けていた内部が、少しずつ満たされる快楽に震える。

前後から伝わる感覚に、全身を支配されそうだった。やばいとすら思うのに、体は逃げることを望まない。

 

「だ……めぇ、あぅ、あっも、いあぁッ」

 

何を叫んでも言葉にならない。

まだコンラッドの全てが入ってすらいないのに、悦楽は狂いそうなほど圧倒的だ。

どこに絶頂があるのかさえも分からずに、もがくしか出来なかった。

 

「い…あぅ、う、あぁっ……、あ、ああァ――――― ……ッ!!」

 

先端を強く擦られると同時にコンラッドのものが一気に最奥まで侵入を果たし、まるでそれに押し出されたかのように、おれのものは白濁を吐き出した。

 

 

 

「……ッは、ふ……はぁ…」

―――― 大丈夫ですか」

 

後ろから伸ばされたコンラッドの手が、おれの額から頬へと滑る。

手は優しい。だけど……生まれた恐怖を拭ってはくれない。

 

「……ッ、嫌だ…」

「ユーリ?」

「おれ、嫌だ……よ…っ」

 

さっきの、すごかった。あんな快楽を感じたのは初めてだった。

 

「こんなの続いたら、おれ、変に、なる……っ…変になるよ……!」

 

まだ身体の奥に、淡く熱が燻っている。媚薬の効果が抜けるのはいつなんだろう。達する度にこんな衝撃を味わい続けたら、おれはおかしくなってしまう。

コンラッドは震えるおれの耳元で、優しく囁いた。

 

「大丈夫ですよ。俺が、一緒ですから」

 

 

 

 

 

 

目を覚ますと、外はすっかり明るくなっていた。

―――― 何時だろう。

とりあえず普段の起床時刻を大幅に過ぎていることは間違いないので、おれは起きようと身動いだ。

……体がやけに怠い。昨日、何したんだっけ?

違和感にシーツをめくってみたら、なんとおれは全裸だった。

 

「うぎゃ」

「ああユーリ、お目覚めですか」

 

声のした方を向くと、軍服をきっちり着込んだ爽やか好青年の笑顔。

それを見てようやく、おれは昨夜の惨事を思い出す。

 

おれ、何回ぐらいイったっけ? 覚えてるだけでも、一回、二回、三回………か、数えるのが恐い。

確か、最後に達した瞬間、おれは気絶したんだった。

 

「朝食は下げさせてしまいましたが、もう昼食が出来る時刻なんで。後で、軽めの食事を持って来ますね」

「ってことは今、昼? じゃあ今日の仕事とか、どうなって」

「体調不良ということで、グウェンに頼み込んで休みをもらいました」

「ありがと。ごめんな、おれ疲れたからってこんな時間まで寝こけちゃって……」

「構いませんよ。ユーリの体がいつも通りの睡眠時間を欲したんでしょうから仕方ないです」

「いつも通り……?」

「ええ。睡眠時間自体は」

 

つまり、寝るのがかなり遅かったってことだよな。

ってことは、どれぐらいヤりっぱなしだったわけ、おれたち。そういえば最後の方、窓の外がほんのり明るくなってきてたような……いや、それは気のせいだよないくらなんでも。あり得ないよなそんな長くなんて。

大体、もしそうだったら、今日も朝早くから起きてたコンラッドは徹夜状態だろ。それでこんなに元気だなんておかしいじゃん。

……でも、もし本当に徹夜だったならごめんなさい。

 

「薬の後遺症はありませんか? 頭痛や吐き気、もしくは体のどこかが痺れるだとか」

「んー……特にないみたい。せいぜい体が怠いぐらいで。あー動きたくない……けど、服着なくちゃ」

「ゆっくりで構いませんよ。侍女の出入りは禁じておきましたんで、あなたの麗しい姿は俺以外の誰にも見られてませんから。……ところで」

 

ベッドへ乗り上がってきたコンラッドが、おれに覆い被さって、おれの顔の両脇へ手を付いた。

え、何? 何??

 

「約束でしたよね。どこであんな物を飲んだのか、説明してもらいましょうか」

「……げ」

 

そういえばそんなことを約束した、気がする。

正直あの時は頭の中がぐちゃぐちゃだったし、徹底的にいじめ抜かれたし、不当な契約だと思うのだけど。

 

「さあ、話してください」

 

にこにことおれを覗き込んでくる笑顔が、笑顔のまま少しずつ黒くなってしまう前に、おれは大人しく降参して白状することにした。

まぁ、約束は約束だし。

全てを話し終えると、コンラッドはなんとも複雑そうな顔をした。おれを見送ってくれた店長さんと似たような表情だ。

 

「……俺に、飲ませる気だったなんて」

 

言いながらコンラッドは、キッチンから回収した媚薬ビン(中身は半分以上残っている)を眺めている。

 

「その……ごめん。考えなしだったよ。……怒ってる?」

「そりゃあ怒っていますよ。あなたが一人で城下に出たことも、大人の店に出入りしたこともね。でもまず問題にすべきなのは、こんなに強い作用の薬が一般市場に出回っていることだな。違法な成分が含まれていた場合は、店の取り締まり強化も考えて……」

「あ、ま、待ってっ」

 

コンラッドが心配してくれるのはありがたいし、その判断も正しいと思う。

でも、あのダンディー店長は悪い人ではなさそうだった。

 

「その薬買うとき、店長さんには親切にしてもらったから、その……おれのせいで取り締まり強化になっちゃうのは、なんていうか……」

「お気持ちは分かりますけど。本当に危険な成分が含まれていた場合は、見過ごせませんよ」

「そう……だよな。ごめん」

「もちろん、店が知らずに売っている可能性も考慮しますから大丈夫です。……それにしても」

 

コンラッドはやや怪訝そうな表情で、媚薬の小瓶を見つめた。

 

「店長からのアドバイスを受けたんですよね。ちゃんと、あなたではなく俺に飲ませる薬だと話したんですか?」

「うん。コンラッドに“欲しい”って言わせるための薬をくれって頼んだんだ」

「……その店長は、“欲しい”の意味を勘違いしたんじゃ……」

「へ?」

「いえ、なんでも。……あ」

 

何かに気付いたように、コンラッドは瓶をまじまじと凝視した。

 

「これ、魔力を持つ者にしか効力はないみたいですよ」

「嘘ッ!?」

「瓶の底に、注意書きが」

 

見せてもらうと、確かにそう書いてある。あーもう瓶の底まで確認なんてしねーよっていうかじゃあコンラッドに飲ませても無駄だったのかよ!?

 

「魔力に関わる薬だったから、混血のあなたには何か特殊な作用が働いて、効果が強まったのかもしれませんね。混血の者が高価な娯楽に手を出すことは滅多にありませんから、今まで気付かれなかったのでしょう」

「じゃあ、“ハーフのひとは用量に注意してください”って注意書きすれば問題ないってこと?」

「俺の仮説が正しければね。あなたにも後遺症はなさそうですし。どのレベルから取り締まるかは俺の決めるところではありませんけど、売店が罰を与えられるようなことはないでしょう」

 

良かった。それなら、あの店長に迷惑をかけることはなさそうだ。

おれはほっと胸を撫で下ろした。

 

「まぁとりあえず、この薬は没収ということで」

「……異存ありまセン。でも、どこに捨てるの、そういう薬って」

「捨てませんよ。今後有効に活用するつもりです」

 

活用? その媚薬の危険度を分析するのに使うってことかな。

 

「ああ、もちろん成分分析にも使いますけど。それはほんの少量で済みますから」

「じゃあ残りは?」

「あなたの脱走防止用」

 

……言われた意味を判りかねて、おれは首を傾げた。

おれが勝手に城下へ行ったことをコンラッドが怒っている、のは分かるけど、なんで媚薬?

 

「これから、あなたが護衛も連れずに城下を歩いたりした日には、飲料にこれを混入することにしますから」

「え、……―――――― !!」

 

ようやく理解した。

要するに、お仕置き。もっと言えば調教。

 

「あ、あんたに出された飲み物はもう飲まねぇッ」

「別に構いませんよ。口をこじ開けて流し込めば済む話ですから」

「………ッ」

「あんな少量の薬で、あれほど乱れてましたからね。お仕置きには、一滴もあれば充分……となると、しばらくは使えそうです」

 

にっこり笑顔が黒い。なんだかあんまり爽やかじゃない!

 

「あんたって、そんな意地悪だったっけ」

「主人の身の安全のため、最善を尽くしているだけですよ」

「それは……でも、昨日のあれは意地悪だろ!?」

「あれも、ユーリの身のためです。媚薬で煽られるままに何度も達するのはお体に悪いですから。適度に焦らして時間を稼ぐ方が、結果的には良いんですよ」

 

反論出来ずに、おれが呻いて押し黙ると、コンラッドは笑みを少し優しいものに変えた。

そして、「でも」とおれの頬を撫でた。

 

「媚薬を買いに走ってしまうほど俺の態度が不満だったのなら、それは謝ります。すみませんでした」

 

そういえば、と思い出す。そもそもアダルトショップなんて利用する決意をしたのは、コンラッドにも懇願させたいと思ったからだ。

 

「そうだよ。あんたももっと、涙目でおれを欲しがったりするべき!」

「涙目になんかならなくたって、気持ちは本物ですって」

「態度に出てない」

「でもユーリ」

 

笑みを消して、真剣な表情でコンラッドが囁いた。

 

「俺があなたを欲しがる気持ちを態度に出したりしたら、あなたは一年中ベッドから離れられなくなりますよ」

 

……本気?

コンラッドの目をじっと凝視する。どうやら、本気らしい。本気と書いてマゾと読んでいるのはギュンターだが、コンラッドの場合は本気と書いてサドだ。

コンラッドが涙目で欲しがってくれるけれど一年中ベッドから出られないのと、現状維持と、どちらがマシか?

そんなの考えるまでもない。

 

「でもまぁ、現状よりもう少し、言葉に出すようにしますね。とりあえず今は……」

 

ユーリのキスが欲しいな。

そう言われて、おれは黙って目を閉じた。

降ってきた唇は優しく温かくて、おれはそれで妥協することにした。