「コンラッ……ぁ、も、もぅ、……嫌――― …っぁ……」

 

コンラッドの部屋、寝台の上。

恥ずかしい四つん這いの姿勢にされたおれの中に、コンラッドの指の何本かが挿入っている。辛さに身を捩っても、コンラッドに上から覆い被さられていて逃げられない。

 

「うしろ、ばっか……嫌だ、……もう、おれ…っ」

 

今夜はまだ、おれは一度も達していない。

コンラッドの指はさっきから何度も、前を弄っておれを絶頂寸前まで追いやっておきながら、最後をはぐらかして離れていってしまうのだ。何度もそれを繰り返されるせいで体はすっかり熱くなり、だけどその熱を解放できなくて、辛くてたまらない。

後ろは今も容赦なく責め続けられているけれど、そっちだけじゃイけない。

 

「嫌ッ、や……だぁっ」

「嫌? 違うでしょう。してほしいことがあるのなら、言ってくれなくちゃ分かりませんよ」

「……ッ、――― ……っ」

 

おれは歯を喰いしばって、両手でシーツを握り締める。

言えるわけない、言葉にできるわけない、そんな浅ましい望みなんて。

 

「……嘘ですよ。本当は、分かってます」

「あ……っ」

 

ここですよね、と囁かれ、そっと握られる。たったそれだけで、先走りが溢れたのが分かった。あとほんの少し擦ってくれれば楽になれるのに、コンラッドの手は決してそうはしてくれない。

 

―――― イきたい?」

 

耳に息を吹き込むように囁かれて、おれは為すすべなくコクコクと頷いた。

後ろからは、ぐちゅぐちゅと卑猥な音が休みなく響いてくる。このままじゃ、体がどうにかなりそうだ。

 

「俺はまだ全然なのに、自分だけ先にだなんて。ずるい方だ」

「……あんたが……ッ」

「俺、が?」

「あんたが……触る、から……!」

「俺のせいですか。それはまた、光栄ですね」

 

会話の間もただ辛くて、おれはとうとう自分の手をそこへ伸ばした。けれど、恥ずかしいのを必死で我慢して伸ばした右手さえ、コンラッドの手に遮られてしまう。

いかせて。そう言葉にすれば、してくれるのだろうか。でもそうねだるのは、自分でするよりも恥ずかしい。

 

「言えないのなら、それでもいいですよ。代わりの言葉をくれれば」

「…何……を、」

「俺が欲しいって。上手に言えたら、すぐ楽にしてあげる」

「っあ、ア、うァっああぁッ!」

 

中の弱いポイントをぐりぐりと押されて、おれは体をしならせた。熱い。でもイけない。

 

「ほら、言ってみてください」

 

コンラッドが欲しい。

それを口にすることだって、恥ずかしいことに変わりはない。でも言えば楽にしてもらえる。

羞恥と欲望のせめぎ合いに、ぽろぽろと涙が零れた。

……いかせて、とねだるよりはマシかもしれない。コンラッドを欲しいと思うのは、淫らな肉体が望むことじゃない、もっと精神的なものだから。

別に浅ましいことじゃない。そう自分に言い聞かせて、おれは声を絞り出した。

 

「……ほしい…よっ、コンラッドが、……ほ……し…っあ、んあぁッ!」

 

優しくご褒美を与えるように、コンラッドの指がおれを撫で擦る。

絶頂寸前で焦らされ続けていたおれの体は、前後から同時にくる刺激で一気に駆け上がった。息をする間もない。

 

「はぁっあ、うぁッ」

「嬉しいです。俺も、ユーリが欲しい」

「も、あ…ッぃ、ぁ、あぁ――― …、ッ!」

 

耳朶を食まれた瞬間、おれはようやく、望んだ解放を得た。

 

 

 

 

 

 

 

―――― 不公平だ!

 

切にそう思う。だって、おかしいじゃないか。

おれはもう何度も、「コンラッドがほしい」ってセリフを言わされている。いつもあの手この手で追い詰められて、言わざるを得ない状況にされてしまい、切羽詰ったおれは涙目の上目遣いで「欲しい」と懇願する羽目になるのだ。

それに対してコンラッドはいつも余裕。柔らかい微笑を浮かべながら「ユーリが欲しい」だとか言ってくれちゃう。

セリフは同じ、でもやっぱ不公平だと思う。おかしいじゃん、おれたち男同士で対等なのに、なんで一方だけ余裕なわけ!? まあ上目遣いがおれだけなのは仕方ないよ、身長差のせいだから。でもコンラッドだって、恥ずかしがりながら涙目で必死に「欲しい」って言ってくれたっていいはずだ。言え、むしろ言わせてやる!

 

そんなわけでおれに思いついた最終手段は、薬を使うことだった。俗にいう媚薬ってやつ?

ちょっと卑怯だとは自分でも思うけど、正攻法では無理だった(何度か、おれから迫って焦らして涙目にさせてやろうと頑張ったのだけど、いつも気付けば途中で主導権を奪われてしまう)のだから仕方ない。それにコンラッドだってこっそり美香蘭を使ってた前科があったりするんだ、お互い様だろう。

薬を手に入れる場所の目ぼしは、もう付いている。以前コンラッドと城下に来た時、知らずにうっかり入ってしまった路地裏の店。「俺たちも今度こういう品を使ってみますか?」なんて揶揄われて、慌てて首を振ったっけ。

あの周辺なら人通りも少なくはないし、一人で歩いても平気だろう。

ってことでおれは、コンラッドが仕事で城を離れている隙を見計らって、昼間こっそりと城下に向かった。

髪はフードで隠して、目にはカラーコンタクト。誰にも怪しまれないこの格好で、おれは難なくその店に辿り着いた。

難しいのはそこからだった。店に入るとまず、いろんな怪しい形の道具が目に入ってきて、恥ずかしくて正視できなかった。俯きながら歩いて薬売り場まで来られたはいいが、今度はどの薬を買えば良いのだか分からない。道具なら見た目でなんとなく使用法の想像がつくけれど、薬はいちいち説明書きを読む必要がある。おれの語学力では、いかんせん読むのに時間がかかりすぎる。こっそり城を抜け出してきた身としては、あまり長居はできないわけで、出来る限り迅速に目的の品を手に入れたい。

迷った末、結局おれは店員に頼ることにした。小さな店だから、店員はレジに一人だけ……というか、その人が店長なのかな。レジに座り本を読んでいるレジの男は、見た目三十代(魔族だから実年齢は五倍だけど)。ひげを生やしてオレンジ色のサングラスをかけ、男らしくがっしりした上半身にラフなシャツ。

話しかけたらレジの邪魔になっちゃうけど、今客はおれを含めて二人だけだし、大丈夫だよな。

 

「あのーすいません、ちょっと聞きたいんだけど……」

「ん、何かお探しかい」

 

サングラスの隙間から覗く目は、善人っぽい感じだ。ちょっとダンディー。

 

「その、薬を買いにきたんだけど……どれ選べばいいか教えてもらえないかなって」

「ふむ。具体的にどんな薬を?」

「あ、その、媚薬……みたいな」

「ほぉ〜、彼氏と使うつもりかな?」

「そ………ッ」

 

思わず否定しかけたが、考えてみればこの国では男同士でも珍しくはないんだっけ。それに、男に効く薬を買わなきゃいけないんだから、そこは正直に話さなきゃだ。

 

「…えーと……そう、です」

「はは、そんなに恥ずかしがる必要はないよ。で、具体的にどんな薬が欲しいんだい」

「相手に……おれのこと“欲しい”って言わせたくて」

 

ダンディーな店員さん(多分店長)は、ちょっと意外そうに瞬きした。

おれは恥ずかしさに耐えられなくなってきて、いつものトルコ行進曲で捲くし立てる。

 

「いやその、いっつも、おればっかり意地悪されて“欲しい”って言わされててっ。でもそんなの不公平だろ! だから、おれもあいつに言わせたいわけ。“欲しい”って! 涙目で! だけど正攻法だとどうしても途中で逆転されちゃうから、卑怯だけど薬に頼ろうと思ってっ」

 

あーもう、いざ人に話すとなると恥ずかしいったらない。

でもとりあえず、こちらの事情は全部伝えた。後はオススメの薬を聞くだけ!

ダンディー店長は、二度ほど瞬きした後、確認するように問いかけてきた。

 

「……ええと……要するに君は、攻めたいのかい?」

「そう! 攻めて攻めて、ちょっとはおれの気持ちを味わわせてやるつもりっ」

「…ちなみに、相手の体格は」

「体格? あ、薬の用量には体格も重要だもんね。えーと……身長はこれぐらーい高くて、筋肉も割とついてる感じ」

 

ダンディー店長は、ちょっと困ったように頭を掻いた。

 

「んー、君は、されっ放しが不満?」

「そりゃ不満だよ。おれだけ涙目にされるなんて不公平」

「いやだけど、無理に逆を試すより、今のままの方が良いような気もするんだけどな」

「え、なんでっ」

「その、攻める側になるには、体格的にもいろいろと都合があるだろうし……」

「体格なんて関係ねーじゃん! おれ、やられっ放しなんて嫌なのッ!」

 

涙目状態で“欲しい”って言わされるのがどんなに恥ずかしいか、コンラッドにも思い知らせてやらなくちゃ。それでおれは余裕顔で“うん、おれもコンラッドが欲しいよ”なんて言ってやるんだ!

ダンディー店長は、おれの頭から足までをゆっくり眺めてから、複雑そうに小さく溜め息を吐いた。

 

「……まぁ、君みたいな可愛い子が頑張っちゃおうって言ってるんだから、ここは男として協力しないとだねぇ」

 

可愛いって誰がだよ。と突っ込みそうになったが、考えてみればここはそういう店だ。ってことは、この場合の『可愛い』は、服売り場の店員が『お客様、お似合いですよ』とか言うのと同じで、真に受けるものじゃないのかも。

店長はおれを待たせて店の奥へと引っ込みガサゴソして、無色透明な液体の入った小瓶を持ってきた。内容量5mlぐらい。

 

「これを半分ぐらい、相手に飲ませてやんな。それで相手は君が欲しくなって、縋ってくるはずだから」

「本当!? 涙目になったりする?」

「そこは君の頑張り次第だけどねぇ……とりあえず飲ませれば相手は大人しくなるから、形勢逆転される心配はないよ」

 

それならなんとかなるかも。

要はいつもおれがされてるみたいに、コンラッドを焦らしたり、ちょっと意地悪しちゃえばいいんだよな。意地悪、の内容は後で考えるとして。

 

「これ買わせてっ。いくら?」

「ちょっとだけ値が張るけど……」

「あ、それぐらいなら小遣いで足りるから大丈夫!」

 

使用上の注意を説明してくれた後、「頑張って攻めておいで」と言っておれを見送ってくれた店長さんは、やっぱりちょっと複雑そうな表情をしていた。薬を使うなんて卑怯なこと、本当は止めたかったのかな?

でももう買ってしまったものは、使わなきゃ損だ。

 

 

 

 

 

 

ということでおれは早速、コンラッドに薬を飲ませる計画を実行した。

ヴォルフラムがビーレフェルト地方に戻っている日を見計らって、夜、おれの部屋にコンラッドを呼ぶ。特に用事があるわけでもなく、ちょっと会話した後に二人で静かに読書するだけなのだが、こんな夜は特に珍しくもないのでコンラッドにはなんの疑問も持たれていない。

それなりの時間を読書に費やした後、おれは、おもむろに顔を上げた。

 

「……コンラッド、なんか喉渇かない?」

 

おれの言葉に、コンラッドも顔を上げた。

 

「そうですね。飲み物を準備してきますよ」

「あ、おれがやる」

「え?」

「たまにはさ、おれの淹れるお茶も味見してほしいし」

 

コンラッドは、「そういうことでしたら」と穏やかに笑って、おれに任せてくれた。

 

――― 完璧だ! 心の中でガッツポーズ。

おれは部屋に備え付けのキッチンで、熱い紅茶を二人分用意した。そして片方にこっそりと、件の液薬を投入。

薬は無色透明、加えて店長によると無味無臭らしいので、バレる心配はなし。

ただ、この部屋の耐熱性カップは一種類しかなく、見た目ではどちらのカップが媚薬入りか区別がつかない。だから取り違えないよう慎重に扱わなきゃいけない。一応、カップの底についている小さな模様はおれが青、コンラッドのは緑、と違うのを選んだけれど、お茶を淹れると底は見えなくなるから無意味。

まぁとにかく、どちらに媚薬を入れたかちゃんと位置で記憶しておけば問題ない。今左手にある方がおれの好きな青色模様のカップ、右手の方が緑色模様の媚薬入りカップ。

 

「はい。まだ熱いけど」

「ありがとうございます」

 

右手のカップをコンラッド側の机に置く。よし、OK。

テーブルには、コンラッドが用意したらしい甘いお茶請け菓子も置いてあった。まずはそれを食べようと、おれは菓子の一つを手に取る。

コンラッドは早速、カップを口元まで運んだ。

お、飲むか? 飲むかっ!?

 

「いい香りですね」

 

たっぷりと湯気を堪能してから、コンラッドは優しい笑顔で言った。

……そうだよな、すぐには飲めないよな。淹れたては熱いし。寝る前に飲むには熱すぎる感じだし。

冷めるまで待たなくちゃな。あれ、でもそういえば、いつもは冷めるまで待ったりせずにすぐに飲んでるような気がするんだけど。

と、そこでおれはようやく気付いた。

いつもコンラッドが就寝前にくれるお茶は、もっと飲みやすい温かさに調整されている。あれは、わざわざ濃く作った熱いお茶に冷水を入れてくれてるんだ。改めて、コンラッドのさりげない気遣いを思い知る。

おれは媚薬を入れることに夢中で、ちっとも気が回らなかった。いや、媚薬に関係なく、気付かなかったかも。

 

「ごめんっおれ……氷、持ってくるっ」

 

コンラッドがおれを止める声が聞こえたけれど構わずに、キッチンに戻り氷を持ち出してきた。

「せっかくのあなたの味が薄まってしまいますから」と遠慮するコンラッドのカップに、氷を数個投入する。もちろん、自分の方にも。

パチパチとはぜる音がして、カップの温度が下がっていく。

 

「まだちょっと熱いけどー……これなら飲めそう、かな」

 

おれはカップを右手で持ち、左の掌を底に添え……ようと思ったら熱すぎて無理だったので、右手だけでカップを傾ける。なるべく冷えている表層を一口、二口。……うん、ちょっと薄くなったけれど、そこまで悲惨な味じゃない。

コンラッドも遅れて一口飲み、「おいしいです」と嬉しそうに微笑んでくれた。

 

……あ、今、媚薬飲んだんだ。

そう思うとちょっとだけ、優しい笑顔が胸に痛い。お世辞にも美味しくはない(しかも熱々の)お茶を嬉しそうに飲んでくれてるっていうのに、実はそれは媚薬入りだなんて。

いやでも騙されるなおれ、夜は帝王に豹変しておれを苛める男だぞ!

心の中でぶんぶん首を振って、おれはお茶請け菓子に手をかけた。

 

「あれ? これ、さっきと違う……」

 

さっきまで置いてあった甘めの菓子の代わりに、さっぱりした煎餅のような薄味のものが並べられている。

 

「お嫌いですか」

「ううん、どっちでもいいんだけど。なんで変えたのかなって」

「そういう気分だったもので」

 

ふうんと流して、菓子をパリパリと齧る。塩と昆布の風味が、薄く舌に乗った。

舌が浅い辛さに慣れたところで紅茶を飲むと、濃すぎないその味がほんのり甘くておいしい。薄味の紅茶も、この菓子とは相性が良いらしい。

……って、もしかしてこれが狙い? 薄くなっちゃった紅茶をおいしく感じられるように、さりげなくお茶菓子をセレクトし直してくれたわけ?

 

「あなたの淹れてくれたお茶は、いつもおいしいですよ」

 

言いながら、コンラッドは嬉しそうにおれの淹れた紅茶(媚薬入り)を飲んでいる。ああ罪悪感。

いやいやでも騙されるなおれ、夜は帝王に豹変しておれを苛める男だぞ!

それに紅茶も半分以上減ってるし、もう後戻りできねーだろ!

おれは罪悪感をごまかすように、ごくごくと一気にカップの茶を減らす。

多量に飲み続けると紅茶の薄味に飽きてしまうので、途中で菓子を数個頬張る。それからまた、目を瞑って一気にごくごく。

「むせないように気を付けて」と窘められる頃に、カップは空になった。水分で胸がいっぱいになると、罪悪感も気分的に薄まった。というか、もういっそ開き直る気分になった。媚薬を飲ませちゃったもんはしょうがない、後は計画通り、コンラッドに恥ずかしい思いをさせてやるんだ。

気合を入れて、瞑っていた目を開ける。と、空になったカップの底に緑の模様。

 

……緑?

 

もう一度、よく見てみる。確かに、おれの飲んだカップの底に緑色の模様がある。

待てよ確か、おれのカップには、おれの好きな青色の模様があるはずじゃ。緑色は……

 

「ええと、コンラッド……もしかしてカップ取り変えたり、した?」

「え? ああ、お気が付かれまし……」

「なんでッ!?」

 

おれの剣幕に面食らったのか、コンラッドは少し驚いたように目を開いたけど、すぐに真顔になって説明してくれた。

 

「このカップのここに、小さなひび割れを見つけたので。誤ってあなたの唇が傷付かないよう、俺のと交換したんですが」

 

ああさりげなく気が利く男、ウェラー卿コンラート。

いつもお茶の温度を丁寧に調節してくれて、おれが薄くて不味いお茶を作っても菓子でフォローしてくれて。

おまけに、カップのごく小さなひび割れまで目ざとく見つけて、そっと取り替えてくれる、とってもとっても気が利く男。

 

「あの……何かまずいことがありましたか?」

 

コンラッドは悪くない、何も悪くないが、まずいことならありまくり。

アダルトショップ店長お墨付きの媚薬を、飲んでしまったのだ。おれが。

背中を冷や汗が流れる。おれ、どうなっちゃうの?

背中だけじゃない、額にも腕にもダラダラと冷や汗が伝う。

ええと、とりあえず……そうだ、コンラッドを部屋から追い出さなきゃ。媚薬を飲んだなんて知られたら、いろいろと問い詰められるに決まってる。

追い出すだけなら簡単だ。「ちょっと体調が悪いから、一人で静かに寝たい」とかなんとか言えば、疑問は持たれないだろう。よしそうしよう。

 

「コンラッド、その、ちょっと……気分悪いから、今日はおれ、寝……」

 

言い訳して席を立とうとした瞬間。目の前がゆらりと歪んで、膝の力が抜けた。

倒れかける体が、コンラッドの腕に抱き留められる。

……やばい。薬が回ってる。体が、熱い。手足に力が入らない。

 

「ユーリ、どうしましたユーリ、お体の具合が悪いんですか」

「平気、ちょっと……気分悪い……だけ」

 

おれの額に手を当て「熱はありませんね」と確認してから、コンラッドはおれを横抱きに寝台へと運んだ。

 

「ここに寝て、少しだけお待ちください。医務官を呼んでき……」

「! だ、駄目ッ」

 

離れようとする服の袖を掴もうとして、だけど力が入らずバランスを崩す。寝台から落ちかけるおれを、コンラッドが支えてベッドに寝かせ直した。

 

「ユーリ?」

「誰も呼ばなくていいから、……一人にして。おれ、それで平気だから」

 

―――― 本当に平気かどうかは、正直怪しいものだった。

体中の力が抜けて一人じゃほとんど動けないし、それに……体中が熱い。内側から次々と生まれる熱に、全身をくすぐられているかのようにもどかしい。焦燥感にも似た痺れが、息を弾ませる。

しかも下半身は、じわじわと覚えのある感覚に襲われ始めている。

やばい。想像以上に、媚薬の効果は激しい。

 

「お望みなら一人にしますから。その前に、念のため医者に診てもらいましょう」

「いらないってば! 今すぐ一人に……して、くれよ」

「ユーリ」

 

窘めるような目で見られても、ここは譲れない。

有能な医者なら、おれの症状を診て媚薬の効果だと分かってしまうかもしれない。そんなの困る。

コンラッドと目線でやり取りしている間にも、おれの半身は勃ち上がり始めている。体の奥が疼いて、何かを望んでいる。

 

「どうしても、医者は嫌?」

「嫌だ。一人が、いい」

「……分かりました、医者は呼びません。でもそれなら、一人には出来ませんから」

 

そう言ってコンラッドは、寝台に腰掛けておれの頬を撫でた。それだけの感触でも、媚薬で接触に飢えた体には小さな快楽が走り、おれは身を竦ませた。

コンラッドはどうあっても、おれを一人にはしてくれそうにない。

でも、もう体は限界だ。

自慰でいい、抜いてしまいたい。楽になりたい。

どんなに息を吸ってもまだ酸素が足りないみたいに、頭がクラクラする。

 

「悪質な病の可能性もありますから、本当なら医務官を呼びたいんですけど」

「……病気じゃ、ねーもん」

「え?」

「病気じゃないから、医務官呼ぶ必要とか、ない」

 

症状を自覚しているということですか、とコンラッドがおれを凝視める。答えを探すように、その掌がおれの首筋から頬をそっと撫でるから、その甘い刺激におれはつい太腿を擦り合わせた。

おれの身動ぐ様子を見てか、コンラッドが「まさか」と呟く。

 

「……媚薬、ですか」

 

これだけのヒントで、どうして分かっちゃうんだろう。

おれは頷く代わりに、目を逸らした。もう、ごまかすつもりはない。媚薬を飲んだと知られたって、もう構うもんか。言い訳なら後で考える。

なんでもいいから、早く一人になりたいのだ。こんな状態のおれを長く観察されたくないし、早く抜いてしまいたい。

 

「詳しく説明して、ユーリ。どうして媚薬を。どこで」

「……黙秘権を行使」

「ユーリ」

「一人に、してよ。一人になりたいの。分かるだろ、…男なんだから……ッ」

 

理由まで話したんだから、もう出てってくれてもいいだろ。

体が辛い。早く擦って楽にしてしまいたい。

 

コンラッドは一つ溜め息を吐いて、寝台を立った。離れていく足音に、おれも安堵の溜め息を吐く。

彼の方を見ないままその足音が出ていくのを待っていると、ようやくガチャリと扉の音がした。

けれどそれは、扉の開閉の音ではなかった。鍵を掛ける音だった。

驚いてそちらを見やると、足音の主はこちらへ迫ってきた。

 

「………ッ!」

 

これから何をされるのかを本能的に感じ取り、おれは慌ててベッドの奥へ逃げ、せめてもの防御にシーツを体に巻こうとした。

だけど手にも足にも力が入らず、シーツを握ることすら上手くできない。結果おれは呆気なく、コンラッドの下で仰向けにされてしまった。

 

「な……んだよ! 一人にしろって、言ったじゃんッ」

「お一人で、どうするつもりだったんですか」

 

不機嫌そうな声と共に、プチプチと夜着のボタンが外されていく。抵抗しようにも今のおれでは、弱々しく彼の手首を掴むことぐらいしかできない。

 

「や……っ」

「お一人でご自分を慰めるつもりだったとでも? こんな状態では、服すら脱げないでしょうに」

「〜………ッ」

 

考えてみれば彼の言う通り。もし一人にされたら、媚薬の効果が抜けるまでずっと、おれは苦しい思いをしたに違いなかった。

でもだからって、コンラッドにされるなんて! 媚薬で変になった体を弄られるなんて恥ずかしすぎる。おれがコンラッドにしようとしてた事なんだから、自業自得って言われりゃそれまでだけど、でもっ。

 

「…あ……っ」

 

顕になった胸先の片方に、舌を這わされる。

おれは思わずぎゅっと目を閉じた。受ける感覚が、いつもと違う。

ただ胸を触られているだけで、全身が総毛立つ。舌で撫ぜられる度に、下半身に血が集まっていくみたいだ。

 

「そこ、それ以上……すんな…ッ」

 

押し返そうとしているはずのおれの手は、相変わらず力が入らなくて、ただコンラッドの頭を撫でるばかり。

 

「いつもより敏感……ですね」

「んッぅあ、あぁッ」

 

胸のもう片側も、指で軽く引っ掻かれる。いつもならこんなことで、涙が溢れるほど感じたりはしないのに。

体はますます熱く辛くなり、呼吸も荒くなる。頭をもたげた下半身がじんじん痛くて、おれは太腿を擦り合わせて気を紛らわせようとした。けれど実際には、間にあるコンラッドの腰を締め付けることになり、彼におれの辛さを訴える結果になってしまって。

 

「イきたいんですね。―――― 今、楽にしてあげます」

 

そう告げて下りた唇は、ちゅ、と音を立てて内股の深い部分に触れた。

足を閉じる余裕もなく見守るおれの目の前で、コンラッドの口が、優しくおれの芯を捕らえて包み込んだ。

 

「あっ……んぁ、は、あ――― …ぁうッ」

 

今まで何度も味わわされた、コンラッドの妙技がおれを襲う。

唇で先端を軽く挟んだまま、舌先を括れに這わされて、果てが見え始めるのはあっという間だった。

濡れた音に混じって響く自身の喘ぎが困惑と羞恥を煽るけれど、体は無関係にコンラッドの動きを追い求める。

 

「やっ! あぁ、んっ、うァっああぁッ」

 

溢れた先走りの流動を舌で掬われ、そのついでのように先端をくりりと刺激される。

いっそ苦しいほどに激しい感覚が、体中を蝕んでいく。

彼の唾液とそうでないものが混じった粘液が、重力に従い落ちて流れ、後孔をわずかに掠めた。その濡れたもどかしい感触に、思わず、自分でも信じられないような浅ましい望みが口をついて出そうになった。

 

―――― 挿れてほしい。

 

一度自覚してしまったら止まらなかった。中がむずむずして、刺激を待ち望んでいるみたいだ。痒いような妙な感覚に焦燥感が募る。

指でもなんでもいい、何かが欲しい。

そんなとんでもない欲望をごまかすために、おれはコンラッドに身を委ねて、前へ与えられる刺激に神経を集中した。

 

「あぅっ、は、ふぁッん」

 

おれの限界が近いことを知ってか、コンラッドの舌が鈴口をぐりぐりと押し、促すように強く吸い上げて解放を誘い始めた。

達してしまえば楽になれるかもしれない。そう信じて、おれは促されるままに全ての波を受け入れた。

 

「あっんぁ……ア、いッぁああ―――― ……ッ……!!」

 

いつもより大きな声を、抑える術など持たなかった。