ヒルドヤードで温泉三昧。例の恥ずかしいビキニパンツにも慣れ、周囲のゴタゴタも一段落、明日には眞魔国へ戻ろうかという日。

「帰る前に、二人きりで過ごしませんか」と囁かれ、昼間にこっそりと連れて来られたのは、小さめの温泉だった。小さめ、とはいっても…おれの知る温泉宿と比べればずいぶんな大きさがある。

 

「本当にここ、貸し切りなの!? …また金の力!?」

「そりゃまあ、そうですけど。大金じゃないですよ。この土地は温泉に恵まれているから、この程度なら一般市民の娯楽の範疇です」

 

もっとも、とコンラッドは悪戯っぽく付け加えた。

 

「魔王様の財力なら、ずっと広い場所も余裕で貸し切りにできますけど」

「わっダメ、そーゆーの駄目、税金を無駄に使うのは悪徳政治家だろーっ」

 

無駄話をしながら脱衣所で服を脱ぎ、いつも通りのピラピラ水着に手を伸ばして。

 

「…二人きりなんですから、それは着用しなくてもいいんですよ?」

「あ」

 

なんてことだ、すっかりコレに馴染んでしまったなんて。

 

「おれに変な習慣がつく前に、こっちに連れて来いよ〜…」

「ここは特に薬効のない湯だから。足首を元気にするのが目的だったでしょう」

 

久し振りに日本の常識通り、腰にタオルを巻いて流し場へ。ヒルドヤードのルールに慣れているはずのコンラッドも、今回はおれに合わせてくれた。

 

「…こういうのは新鮮ですね。アメリカでも水着着用が一般的だったんで」

「じゃあ、せっかくだからもっと日本らしい事してみる?」

「日本らしいことって?」

「あれだよ、お背中流しましょーかってやつ。伝統!」

 

備え付けの椅子に座り、タオルで自分の体をごしごし洗ったあと、同じく体を洗ったコンラッドの後ろへ椅子を寄せる。「お背中流しましょーかー」の掛け声も忘れない。

 

「そう言葉にするのも伝統なんですか?」

 

含み笑いで聞くコンラッドに、多分ねと答えて、泡立てたタオルで広い背中を洗った。

なんてことのない行為なのに、なんだか楽しい。二人きりで、いつもと違うことをしてるからかな。

最後の仕上げに、洗面器に汲んだお湯をざばーっと掛ける。すっきり。

 

「じゃあ次は、俺がお背中を流しましょうか」

 

振り向いたコンラッドが、おれに背を向けるよう促す。

 

「えっいや、おれはいいよ。そりゃー背中の流し合いは基本だけど、されるのはくすぐったくて苦手なの」

「じゃあ尚更、練習ってことで」

 

ふざけた声色で言いながら、コンラッドはおれの体を反転させてしまう。

 

「ちょっ…とコンラッドッ、わ、ぁ……あ、あはははっひゃぁッ」

 

さっき おれがしたみたいに、背中を洗われる…けど、駄目、やっぱコレくすぐったい。

 

「暴れないでユーリ、練習練習」

「ンなこと言われても…、ひっぁ、はは、あッそこ洗った、自分で洗った、っふあぁ」

 

腹に触れられて、もうくすぐられてるとしか思えない。体を大きくくねらせて、それでもバランスを崩さず椅子に座っていられるのは、コンラッドが上手いことおれを支えているからだ。

 

「あっギブ、本当ギブ、も…あはは、あ、あッ」

 

両側から横腹を洗った手のひらが移動して、タオルの乗っている太腿の外側から内側までを撫でて、

…って、あれ? なんか、かなり背中から外れてない?

 

「あ、……え?」

「…気付かれちゃいました?」

「ていうか…、……やっ…ぱ、こういうことすんの?」

 

後ろから覗き込む視線が急にいやらしく思えて、身をすくませた。腰に巻いたタオルのおかげで、変な場所は見られてないんだけど。

 

「二人きりの誘いに快諾してくれた時点で、こういうことも了承してくれたのだと思ってましたけど」

「いやそりゃ、旅行中は一度もしてないしなって、考えてたけど…」

 

でも、風呂でなんて考えないよ。

おれが逃げ腰になっていることに気付いたのか、コンラッドの手が一度離れて。それからすぐに、胸先を摘まれた。

 

「んっ…」

 

泡でぬるりと滑らされる。いつも通り捏ねられる動きに滑る感触が加わって、得体の知れない浮遊感に襲われた。舌で舐められるように柔らかで、だけど指先の動きは舌よりずっと細やかで。

 

「…っ、――― …ッ」

 

指はしばらくして、もう片方の胸へと移動した。そこでもまた、同じ動きを繰り返される。

まだ風呂には浸かっていないのに、のぼせてしまいそうだ。息が乱れて、抵抗する気力が潰えていく。コンラッドの手がおれのタオルを奪っていくのに、ぼんやりと目で追うしかできない。

そのまま脇腹を、泡の乗った指先で何度か滑らされた。ゾクリと鳥肌が立った。くすぐったくて体がビクビクするんだけど、笑い出したくなるようなそれとは違う。逃げたい、のに逃げたくないような変な気分。

 

「あ…ッ、ア……」

 

先走りの涙を流していたそこを、コンラッドの手のひらが包んだ。

 

「これだけのことで、感じていたんですか」

「あんた…が…、変な触り方、するからだろ…ッ」

「俺は、陛下の体を洗っているだけですよ」

「あ……っ」

 

くちゅり、とわざとらしい音を立てて泡でしごかれる。そりゃ結果的には洗ったことになるんだろうけど、違うだろ。ていうか。

 

「…陛下…って、言うな……!」

「そうでした。……ユーリ」

 

耳元で低く名前を囁かれて、鼓膜がビリビリと痺れるように疼く。やばい、墓穴を掘ったみたいだ。

空いた手で、コンラッドは震えるおれを深く抱き込んだ。背中にコンラッドの裸の胸が当たる。それから、腰にも。

 

「……、あ……」

 

当たってるの…これ、コンラッドの…じゃん。布越しじゃなくて直接、熱を押し当てられてる。気付いてしまったら恥ずかしくてたまらず、身をよじろうとしたけれど、獣モードに入っちゃってるコンラッドから逃げられるはずなくて。

 

「じっとして。イかせるから」

「んっ…ァ、あっ」

 

手早く擦られて、コンラッドの腕を引っつかんだ。あっという間に頂点が見えてくる。

いっそ身を任せてしまえば楽になれるとは思うけれど、羞恥が邪魔をして、おれの体は波に抗おうと喘ぐ。そんなおれを弄ぶように、コンラッドの親指が敏感な先端を撫で上げた。

 

「ふぁッ…あ、んぁ、……あぁ―――― …ッ」

 

…いとも簡単に、果てを迎えてしまった。

 

 

 

ピンと張っていた右足から、くたりと力が抜ける。トレーニングの直後みたいに息が荒い。

瞼を閉じてコンラッドに背を預けたら、ちゅ、と頬を軽く吸われた。

それから、後ろにコンラッドの指が当たる。

 

「もう、挿れても平気ですか」

「…ん、――― ……ッ」

 

答えるが早いか、それが体内へと入ってきた。まだ絶頂の余韻が抜けきらない体を慰めるように優しく、浅い抜き差しを繰り返される。

慣れたようで慣れない刺激。奥がぼんやりと熱くて、その分、体の表面は…冷たく感じて。

 

「……へくちっ」

 

ぴたりと、コンラッドの指が止まった。

くしゃみをしたおれ自身も、少し驚いてしまった。あまりにも、場にそぐわない声を出してしまった気がして。

 

「体、冷えますか?」

「え…いやそんな」

 

寒くはない、というか寒かったとしてもコンラッドにこうして触れられている間は気にする余裕がない。冷えてないよ、と首を振ったけれど、コンラッドはべたべたとおれの腕や脚を触って勝手に納得している。

 

「ああ、やっぱり冷えてる。気付けなくてすみません」

 

なんて謝られても!

おれとしては体温や気温なんかより、行為がストップしてしまったことの方がよっぽど気になる。いやその、『もう我慢できない早くしてー』とかじゃなくてさ、恥ずかしいんだよ。だって指まで入っちゃってるのに、それなりにいい雰囲気だったのに、まぬけなくしゃみ一つで中断だなんてとてつもなく恥ずかしい。

 

「あの…さ、おれ別に寒くないから、その…」

「一度、湯に浸かりましょうか。このままだとますます冷えてしまう」

「え、…あ……ッ」

 

内側にあった指が、引き抜かれていった。

…どうしよう。『史上初、くしゃみ一つでえっちを中断したカップル』だなんてシャレにならない。

いや史上初じゃないよな、うん。コンラッドみたいな過保護な恋人なんてそこら中にゴロゴロいる…とは思えないけど、でも水洗トイレに流されるよりはよっぽど現実味があるし。

けど、史上初じゃなかったとしても恥ずかしいことに変わりはない。どれぐらい恥ずかしいかというと、お姫様抱っこで浴槽まで運ばれてるのに抗議する気も起こらないぐらい。

 

「あっ、お湯に入るなら泡は流してからじゃないと…」

「貸し切りなんだから、気にしないで」

 

コンラッドが湯に体を沈めて、抱かれてるおれも自然と湯に浸かることになった。いい湯加減なんだけど、うう…気まずい。コンラッドの顔が見られない。

そんなおれの気持ちを察してくれたのか、コンラッドはおれの体の向きを変えて座らせて、さっきと同じく背後から抱き込むような体勢にさせてくれた。ほっとしたのも束の間、すぐにコンラッドの熱に気付いて心臓が跳ねる。後ろから腰に当たっている熱。そりゃそうだ、おれは一度してもらったからいいけど、コンラッドはあんな中途半端で止めたんだから。

 

「…コンラッド、おれ…手で、しようか?」

 

控えめに提案してみる。

 

「お気遣い、嬉しいです。でも、出来れば…こちらをお借りしたいですね」

「え、……え?」

 

後ろから腰を掴まれ、少し持ち上げられる。って、まさか…嘘だろ!?

 

「ちょっと、コンラッ…あ!? ひっ…ぁッ!」

 

先ほどほぐされた箇所へコンラッドを受け入れるように、体を沈められてしまった。いつもより熱い。

 

「あ、あ……っ、お湯、が、入っちゃ…ぅ……ッ」

 

もがいた拍子に、パシャパシャと水面が跳ねた。

 

 

 

 

 

「あっ…ぅ、ア」

 

腰を捕らえられた状態で、持ち上げられては下ろされる。

水中だから、自然と動きは鈍い。ゆったりとしたペースは、おれには合っていると思う。

ただ、問題は一つだけ。

 

「おれ、……のぼせ、そう…」

 

頭がクラクラする。コンラッドと繋がってるところだけじゃなく、体全部が熱くて。まるで湯にまで犯されているみたいだ。

 

「のぼせそう、どころか。俺はユーリにのぼせっぱなしですよ」

「…っな、に言って…っ、ていうか、そーじゃなくて……っ」

「分かってます。…掴まって」

 

腰と胸のあたりに両腕を回された。と思ったら、ざばんと音がして、おれの体は持ち上げられてしまった。持ち上げられたというか、コンラッドが立ち上がっただけ?

 

「あっ…、わ……!」

 

体はコンラッドと繋がったまま、おれの上半身は湯から上がった。完全に体を浮かされている。コンラッドは中腰で、壁にもたれかかっているらしい。

 

「これなら、のぼせずにすみますよね」

「この、まま…ッ、する気……!?」

「暴れたりしなければ、落としませんよ」

「あ、…んぁ……っ」

 

さらに上へと持ち上げられて、重力任せに落とされる。水の抵抗がないから、さっきより動きが激しい。

 

「いぁ、あっ…ぁ」

「…大人しくして…」

 

落ちないようにと、おれを抱くコンラッドの腕の力が強まる。でも、おれが大人しくしていられない原因もコンラッドだ。手加減されているのかもしれないけれど、これ、おれには激しすぎる。

しかも水面の位置が悪い。コンラッドと繋がっている部分ギリギリにちょうど水面があって、水が揺れる度にそこを舌で嬲られる感触が蘇る。

 

「ア……、だ…めぇ……ッ」

 

無意識に逃げを打とうとする体を意識の力で抑え込んで、コンラッドの腕に縋りつく。暴れたら落とされてしまう。このまま刺激を受け続けたら変になってしまいそうで、でもこんな体勢じゃ抵抗もできない。ただ、コンラッドに全てを委ねるしかない。

 

「や…っぁ、…もっ……ゆっくり――― …ッ」

「…もう少し……耐えて」

「はぁっ、ア……んぅ……」

 

熱くて苦しくて、湯に浸かってもいないのにのぼせそうで、ふわふわ飛んでいきそうになる意識を何度も手繰り寄せた。ほどなく、内側に湯を注がれるような感触がして、コンラッドが果てたのだと知った。おれはその前に達していたのか、後だったのか、記憶は曖昧だ。

 

 

 

 

 

 

 

―――― …ってことがあったよなァ」

 

それからずーっとずーっと後のこと。再びおれたちはヒルドヤードの温泉に来ていた。メンバーはあの時と同じ、ヴォルフとグレタを含めた四人で、さながら家族旅行。

あの恥ずかしい下着でゆったりとお湯に浸かっていたら、たまたまヴォルフとグレタの離れている隙にコンラッドが寄ってきて、なんとなくあの二人きりの温泉を思い出してしまった。とりあえず、くしゃみで行為をやめにするようなことがなくて良かったと思う。

 

「そうそう、あの時改めて、コンラッドの腕力に感心したんだよ。見た目は引き締まってるのにな」

「印象に残ったのはそこですか」

 

微笑と苦笑を織り交ぜたような表情でコンラッドが言う。印象に残ったところ(というか、おれが大切にしてる思い出)はもちろんそこではないけれど、照れ隠しってやつだ。

 

「今回も、二人でどこかへ抜け出しましょうか。…と言いたいところですが、あなたが愛娘と触れ合う貴重な時間をまた奪うのは忍びないですね」

「二人でって、また貸切温泉とか?」

「うーん…今回は、温泉以外で」

 

温泉続きでもおれは飽きないぞー、と笑いながら言おうとして、コンラッドの少し複雑な表情に気付いた。

 

「どしたの?」

「あー…ほら、その……」

 

言いあぐねるようにコンラッドが目を逸らす。

なんだよ言えよ気になるじゃん、とコンラッドの脇腹を突いたら、ちょっと遠い目をするように上を向いてコンラッドはとんでもないことを口にした。

 

「風呂だと、最中にあなたが地球へ戻ってしまわれる可能性があるから、少し危険かなあと」

 

少しどころじゃねーよ!

そうだ、あの時は全然地球へ戻れない時だったしすっかり失念してたけど、おれは水関係の場所にいるとどのタイミングでスタツアするか分からない。

今更ながら、さぁっと血の気が引く。え、あの時はバンドウくんに引き摺られて眞魔国へ呼ばれてて…だからもし地球へ帰ってたらあの状態であの場所へ、……ええぇ!?

 

「コンラッド、あの時は気付かなかったのかよ!?」

「気付いたのが途中だったので、どうにも…」

 

優先順位が変だろ。おれのくしゃみ一つで中断するくせに!