聖砂国へ向かう貨物船。

天気は上々。気分は下々。

サラレギーとの二人部屋が息苦しくて、おれは彼の目を盗んで一人甲板へ出ていた。

あの部屋に息苦しさを感じる理由は大きく三つだ。その一、小シマロンの王と接するには常に緊張を強いられること。その二、昼間から室内に閉じこもるのがおれの性に合わないこと。その三、おれのよく知る人物がサラのボディーガードとして部屋に出入りしていること。ああ多分これが一番大きい。ある程度は感情を整理したつもりいても、サラと彼が接している様子を間近で見るのは未だ慣れない。

そんなわけで、一人で部屋を抜けた。サラの目を盗むついでにお庭番の目も盗んでしまったが、今は一人きりが一番落ち着くような気もする。頬を撫でる潮風はやたら温度が低いくせに湿気のせいで生温くて、どうにもすっきりしないけれど。

 

「ここ…なんの扉だろう」

 

人気のない場所を選んで歩くうち、船の端まで来てしまっていた。数回ノックした後、好奇心でその扉を開いてみる。どうやら小さな物置らしい。

そっと入って扉を閉じると、木製特有の軋み音が響いた。部屋の四隅にはランプの明かりが灯っていて、探し物には困らない程度に明るい。湿気たっぷりの篭った匂いさえ気にしなければ、一人きりでいるには調度良いかもしれない。室内に閉じこもるのは嫌いだけど、今は走りたい気分でもないし。ああでも、こんなほの暗くて狭い部屋にいたら余計に気が滅入っちゃうかな。いやそれ以前にランプのオレンジ色が問題かも。これが青なら悪くない。例えばそう、この…魔石みたいな色なら。

厨房服の下から、常に身に付けているそれを引っ張り出してみる。これをくれた彼は、今何を考えているのだろう。彼がおれの味方でないことは確かだけれど、じゃあ敵? 眞魔国とは敵対する国に自ら属しているけれど、でも。

…おれはいつまで彼を想うつもりなのだろうと、自嘲して笑った。いい加減、けじめを付けなきゃいけない。

それでも心のどこかで彼への信用を捨てられないのは、彼が時折、そう誤解させる行動を取るからだ。

例えばこの船に乗り込んだ時、甲板に叩きつけられるはずだった体は彼に抱きとめられた。

物置部屋の積み上げられた荷物に背中で寄りかかり、ぼんやりとその時のことを思い出す。考えてみれば、あの新しい左腕にはっきりと抱かれたのは、あれが初めてだったっけ。以前おれを抱いた腕となんら変わらない、逞しく頼り甲斐があって力強い腕。厚い服で覆い隠されているけれど、その筋肉は鍛え上げられていて、だけどしなやかで。おれはあの腕に何度も守ってもらったんだ。そして、あの腕で何度も…

 

―――― ……ッ、う…うそ……」

 

ついその感触を思い出してしまったら、おれのそれが反応していた。こんなに簡単にたってしまうなんて。というか、いろんな問題が山積みの状態で、こんなの不謹慎じゃないのか。

なんて考えてみたところで、一度熱を持ったそこは簡単には収まらない。そういえば、地球にいてはこの世界のことばかりを考え、この世界にいては考えることが多すぎて、一人でする余裕はなかった。要するに、すっかりゴブサタ。

一度だけ、なら。抜いても構わないだろうか。無理に鎮めようとするよりも、さっさと抜いて楽にしてしまった方が心身のためだし、久し振りだからどうせすぐに終わるだろうし、幸いこの周辺は人通りも少なかった。

荷物に凭れかかったまま、おれはそっとズボンを下ろして、熱を両手で握った。

動かしていると、程なく息が上がってくる。体からは徐々に力が抜けて、おれはずるずると座り込んだ。

 

「……ッ、…ぅ……」

 

本能のままに手を動かしているうちに、湧き上がってきた衝動があった。一人でそんな場所を触るなんて、と迷ったけれど、もう今更取り繕ったって自慰には変わりないんだからとそのまま衝動に従うことにした。

左手を、そっと後ろに回してみる。

 

「んっ……」

 

割れ目を指先でなぞってみると、慣れない妙な感覚が背筋を震わせた。自分の指でも、入れられるものだろうか。…入れてみようか。

こんなことをしたら達してしまってから後悔するかもしれないと、思わなかったわけじゃない。熱も衝動も、明確なある人物ばかりを追っていたから。

どこが『けじめ』だよと呆れてしまうけれど、今だけ、一度だけと、これさえ終わったら気持ちを入れ替えようと思っていたんだ。

まさか達する前に後悔するとは思いもしなかった。

 

 

 

突然、部屋へ差し込んできた外の明かり。開けられたドアと、開けた彼―――― ウェラー卿コンラート。

彼もひどく驚いた顔をしていたようだが、おれはもっと酷い顔を露呈していたに違いない。まず体中の熱が引いていくように感じた。そして次に、恥ずかしさで体中が火照っていった。顔色は青から赤へ。体は、あまりのことに硬直して動かなくて。

 

「…陛下……?」

 

呼ばれてようやく、早くこの部屋を出ようと思い至った。

 

「ご、ごめん…っ」

 

慌ててズボンを穿いて立ち上がる。なるべく彼の顔を見ないように俯いたまま、彼の左脇を擦り抜けて外へ…出ようとして、左腕に遮られてしまった。

 

「ごめんってば、あんなことしてて悪かったって、本当にっ」

 

片腕だけでおれの胸周りを抱き込むようにして押さえられてしまう。おれはその腕を両手で掴み、どかそうと躍起になった。

 

「なんだよ、同じ男なら分かるだろ、しょーがない時もあるって…、み、見なかったフリが礼儀だろッ!?」

 

恥ずかしすぎて顔を上げられない。一刻も早く外へ逃げ出したい。

 

「通せよいい加減っ、おれ部屋に戻るよ、もうこの船を汚したりしないし、だから…、……っ!?」

 

ひゅっと息を飲んだ。おれを押さえながら下方へ移動した左手が、ズボン越しにそれを擦ったのだ。気のせいや偶然じゃない、明らかに意図を持った動きで。

予想外のことでおれの対応が遅れているうちに、彼は空いた手で扉を閉めてしまった。

布越しの柔らかい刺激はそれほど強くないけれど、おれには混乱の方が大きかった。とにかく止めさせようと、彼の左腕を両手で引っ掴んで押し戻そうとしたが、ビクともしない。奮闘している間に、彼の右手はおれのズボンと下着を下ろしてしまった。さっき急いで直したせいで、ベルトも止めていなかったのを思い出す。

 

「ひゃ……っ」

 

直接触れられて、思わず腰を後方へ逃がした。さっき一人での行為を中断したせいで、簡単に立ち上がるどころか一気に頂点すら見えそうになる。

 

「こんなの、な…んのつもり、だよッ」

「ここへは、頼まれた荷を取りに来たんですが…邪魔をしてしまったようで申し訳ないので。お詫びにお手伝いをしようと」

 

前から追い詰められて、おれはじりじりと後退する。体中が快感に震えて、彼の腕を押し返すどころか縋みついているような状態だ。

 

「手伝いなんか、頼んで、な、っ…い…」

「与えられた仕事しかこなさない者をお好みですか?」

「そうじゃ、ねーよ…ッ、あ、やめろって……んぁッ…」

 

そのまま壁際まで追い詰められて、後がなくなる。逃げ場を失ったところで軽く足を蹴られ、座らされてしまった。その上ズボンを完全に脱がされて、足を開かされ、間に彼の体を割り込まされる。

こんなに好き放題されて、だけどほとんど抵抗できなかった。ほんの少しでも気を逸らしたら今にも達しそうなほど限界で、耐えることに精一杯だったから。彼の手はおれを追い上げるというより焦らすようにゆっくりと動かされていて、こんな動きでこんなに早くだなんて絶対に嫌だった。

 

「ん…ぅ、んん――― ……っ…」

 

けれどそろそろガマンできなくなる。少しでも耐えられるよう、彼の腕に額を押し付けて歯を喰いしばる。

 

「ふあぁッ、あ、ん」

 

無防備になった耳に舌を入れられた。悶えながらも、それを止めるべく抵抗する余裕はなく、ただ彼の腕に縋み付くだけ。

それでもまだ少しは耐えられると思っていたのに、いきなり耳たぶを強く噛まれ、悲鳴を上げてしまった。そしておれの気が逸れたところを狙うように、波が一気に押し寄せる。一度襲われたら、もう逃げる術はない。

 

「あぅ、あ、………ッ、ひっ、うあァッ…!」

 

みっともない声を上げて、果ててしまった。

彼の腕を掴んだまま、ぐったりとそれに顔を押し付けて、ぜぇぜぇと荒い息を吐く。

おれの放ったもののほとんどは彼の左手に収まっていた。受け止め損ねた一部を拭いながら、彼は呟くように言う。

 

「…ずいぶんと早いですね」

 

うるさい。これでも精一杯ガマンしたんだよ。

 

「悪かったな。…おれの大切なやつがおれの国を出て行ってから、一度もしてなかったせいだよ」

 

とにかく“お手伝い”とやらは終わったんだ。息を整えて立ち上がろうとして、だけど開かされた足の間にある体が邪魔だ。

 

「………どけよ」

 

睨み付けてやりたいが、気まずすぎて顔は見たくない。

どかないなら自分が退くまでだ。後ろに壁、前に彼、じゃあ横だ。右側から抜け出そうと体を傾ける。

 

「まだですよ」

「っわ……!」

 

傾けた体を、そのまま押し倒された。仰向けに寝かされ驚いて見上げると、大シマロンの特使は薄く微笑していた。そういえば、こんなに間近できちんと目を合わせたのは久し振りだ。…なんて考えてる場合じゃない、これってますます不利な体勢じゃん。

 

「あんなに早かったのだから、一度では不充分でしょう」

「っ! やめ、っ……ん…ぅ」

 

撫でられて、当然のようにおれはまた反応した。おれ自身の液で滑らされて、さっきよりも刺激的に煽られる。

 

「やめろ、っ…て、ばッ」

 

おれは、かなり本気で抵抗していたと思う。

開かされた足はバタつかせる程度しか出来なかったけれど、遠慮なく思いきり顔を殴り飛ばそうとしたし、肘鉄だって食らわせようとした。でもどれも軽く片手で止められるか、かわされてしまった。敏感な部分を撫でられながらのおれの弱々しい抵抗なんて、彼の前には無に等しいのだろう。

 

「俺の見間違いでなければ…」

 

囁きながら、彼の左手がおれから離れる。ほっとしたのも束の間。

 

「…先ほど、自分で触ってましたよね? ここ」

「っ……!!」

 

ノックされたのは、後ろの入り口。

 

「一人でする時も、ここを?」

「してねーよ! 一度もしたこと、ない…ッ」

「本当に?」

「調子に、乗んなよっ」

「羞恥を煽るのも、こうした行為の一環ですからね」

 

当然のような口振りで、彼はおれの手伝いとやらを継続する。

 

「手持ちの油がないので、こちらで…」

「っあ」

 

潤滑剤として軽く塗りつけられたのは、おれ自身の飛沫だった。

 

「こんなの、どこが手伝いだよ…ぁ、んッ」

「…一人でも、挿れたそうにしていたでしょう」

 

指がぬるりと侵入した。久し振りの感覚に、満たされそうになってしまう。ああでも、この左指は以前おれを満たした指ではないんだっけ。

 

「ふぁ、う――― …っ、う」

 

指のせいで、うまく抵抗できなくなる。下手に動くと中が擦れて、自分ばかりが辛い。

でも、じっと忍んでいれば救われるというわけでもない。指はよくおれを心得ていた。どこをどうすればおれが追い詰められていくのか、全て知られている。

特に敏感な箇所を探り当てられ、ぐりぐりと揉み擦られて、必死で涙を堪えた。

 

「…ッめろ、よ……っ、……」

 

彼の指に体中を支配されているような錯覚に陥るほど、大きな快楽を断続的に与えられる。

おれに出来ることは、せいぜいが首を振ったり抗いの声を出したりして、拒否の意を示すことぐらいだ。でもおれの言うことを聞かない部位は、早く触れてほしくて硬く張り詰めている。

 

―――― ッ!?」

 

何か別の熱くて硬いものが、挿入っている指の傍らに宛がわれた。

驚きに息を飲む。ぎゅっと閉じていた目を開けて彼の腰の位置を確認し、確信した。

…冷水を浴びせられたような気がした。おれのされていることを、おれたちのしていることを、理解してしまった。

それをしてしまったらもう、『手伝い』なんて言葉でゴマかせはしない。

 

「駄目、だろ…っ、…それは駄目だろ…ッ」

 

おれたち、対立する国のお偉いさんじゃん。あんた、おれの国を…裏切ったんじゃん。

 

おれたち、やっちゃ駄目だろ。

 

指が引き抜かれるのを感じて、おれはめちゃくちゃに暴れた。おれに触れる全てを振り払う勢いで、足だろうが手だろうが思いきり振り上げた。捕まったら終わりだ、最後までされてしまう。

けれどおれの最後の抗いも空しく終わった。両手首を掴まれたと思ったら、あっという間に後ろ手で縛られていた。それで両足を抱えられてしまったら、もうおれは。

 

「何…をする気だ、…ウェラー卿!」

 

慣れない口調で叫んだ。この呼び名で、彼がおれたちの立場を再確認してくれることを期待したのだが、彼は眉一つ動かさなかった。

 

「やめ、あっ…、ぅ」

 

ただ幸いなことに、再び入ってきたのは指だった。緊張で固くなったそこを ほぐし直すつもりだろう。

早くなんとかしないと。おれの手を縛っているこれは多分、ベルトだ。どちらのズボンから引き抜いたものかは分からないが、こんな材質でキツく縛れるとは思えない。ガチャガチャと両手を動かして、少しでもこの拘束を緩ませようと試みる。

 

「っあ!? …はっ、んぁ」

 

手首に気を取られていたら、何か湿ったものが、彼の指とおれとの境界に触れた。舌だ。少しでも湿り気を与えて、滑りを良くしているんだろう。

いっそ、気遣わずに無理矢理された方がマシだ。一方的なレイプなら、おれは完全な被害者の気分を味わえる。

 

「い、や…ッ」

 

くすぐるような舌の動きに、体が酷くわなないた。震えて感じながら、それでもなんとか両手首を自由にできるよう必死になる。

甲斐あってベルトは少しずつ緩み、もう少しで抜けると思った瞬間、おれの体内に埋まっていた指が先に抜けていった。代わりに入ってきたのは、当然、おれのよく知るものだった。

 

「いっ…ひぁあう、ん、う……ア……ッ!」

 

解けそうだったベルトが、再び手首に食い込んだ。

苦しい。体への痛みは予想していたほどではなかったが、ただ苦しい。

ウェラー卿が、ぽつりと呟くように言う。

 

「……狭いな」

 

当たり前だ、どれだけおれのこと放っておいたと思ってんだ。

 

「っ…は、……ぅ」

 

彼の手が、耳の下から首筋あたりを柔らかく撫でた。『力を抜いて』の合図だ。

でもそんな方法、もう忘れちゃったよ。

彼の手はしばらく同じ箇所を撫で続けていたが、おれの体が上手く順応できないのだと気付くと、服の方へと移動した。汚さないようにとの配慮なのか、この姿勢で脱げるところまで脱がされる。

 

「んぁ……、は…」

 

シャツの隙間から肌をまさぐる指が、胸先を捏ねた。甘い痺れがもどかしくても、おれに逃げ場はない。為すすべなく甘受する刺激に意識が向いて、苦しみは多少マシになる。しばらくそうして時間を稼がれるうちに、体は少しずつこの状態に慣れていった。

 

「…く、ひッあ」

 

おれの苦しさがそれなりに軽減された頃を見計らって、突き上げられた。

ずるずると引っ張り出される感触も、再び奥を抉られる衝撃も、痛みと痛みでない感覚の両者を煽った。涙はどちらに耐えかねたものだろう、自分でも分からない。

 

「あっ、いた…ぁッ、う」

 

縛られて何もできない。それでも何かを逃がそうと体を捻り、顔を逸らした。でもすぐに肩や顎を掴まれ、彼の方へ向き直させられてしまう。

彼の律動を全て正面から受ける準備はない。何度かあの合図の場所を撫でられたけれど、簡単に力を抜けるなら苦労はしない。涙ばかりがぽろぽろと、熱い。

 

「えぅ、う―――― ……んぐ、ッんん」

 

突然、手のひらがおれの口を塞いだ。息苦しくて思わず首を振って、

 

『坊ちゃーん。坊ちゃん、どーこでーすかー』

 

聞こえた声に、固まった。眞魔国に忠実なおれの部下が、姿の見えなくなった主君を探している。

 

『返事してくださいよー、坊ちゃーん?』

 

のんびりとした声は余裕を装っているが、実際そうでないことはおれにも分かる。あの部屋を出てから、どれぐらいの時間が経ったっけ。敵対する国の船で主の姿が消えれば、気が気じゃないだろう。

ここにいるのだと知らせてやりたくて、でもどうしようもなく、口を塞がれたままドアの方向を見やる。と、コンラッドがおれに目配せして「気分が悪い、と言って」と小声で囁いた。

大シマロンの使いに強姦されているのなら、おれは彼の誘いになんか乗らずに助けを求めて叫ぶべきだ…けれど。

…おれの思いを見透かしたように、ウェラー卿の手がおれの唇を解放する。

 

「…ック、ヨザック! おれ、ここ…物置の中っ」

 

この体勢で出せる限りの気丈な声で叫ぶ。

安心したような声と駆け寄ってくる足音、そしてガチャリとドアノブに手をかけられる音が聞こえた。一瞬ぎょっとしたが、ウェラー卿はきちんと鍵をかけていたようだ。

 

「ごめん、ヨザック…心配かけて。なんか気分、悪くて。少し、放っておいてくれる、かな」

『? だからって、なんで物置なんかに…』

 

本当に大丈夫なんですかと、ヨザックが念押しする。

 

「本当、平気。ちょっと今、外に出たくなくて―――― ……ごめん」

 

最後の“ごめん”に、詰め込めるだけの思いを詰める。

数秒の沈黙の後、了解の意を伝える神妙な声が聞こえ、足音は離れていった。

 

「…お上手でした。あなたもなかなかの役者ですね」

 

おれは本当のことしか言っていない。それに、

 

「役者はどっちだよ。あんたは、何も…芝居してないってのかよっ。シマロンのヘーカに忠誠を尽くす態度とかぜんぶ、あんたの、本心…っう、ああぁっ!」

 

油断していた隙に一度突かれ、大きく仰け反った。

 

「しばらく経ってもあなたが戻らなければ、ヨザックはまたここへ来ますよ。早めに終わらせなくては」

「…勝手を、言うな…ッ」

「本当に嫌なら、あの忠実な部下に助けを求めれば良かった」

「!」

「あんな扉なんか蹴破ってでも、助けに来たでしょうに」

 

どうして、おれは?

言い訳はいくつか浮かんだ。この状態を見られるのは嫌だからとか、助けを求めたらあんたに乱暴されそうだからとか、稚拙な言い訳ばかりだった。

彼は、黙りこくったおれの背に手を回し、ベルトを解いてくれた。血が行き渡ってなかったのだろう、腕から手がじわりと痺れて少し痛む。

「こちらへ」と両手を取られて、彼の背へと回された。抗えるほどの力は心にも体にも残っておらず、素直にそれに従う。でも縋みつく気は皆無で、手なんかすぐに床へ落とすつもりだった。

 

「あッ、んあぁ…っ!」

 

だけどウェラー卿も心得たもので、手を下ろす直前にまた突き上げられた。おれは思わずその背に縋み付く。そして、一度何かを掴んでしまうと、揺さぶられ続ける限りそれに縋り続けてしまう。

 

「やめ……ぅ、い…はッ」

 

おれの張り詰めたものに指をかけられ、彼と同じリズムで扱かれた。快感が苦痛を上回りそうになり、体が痙攣したように震えた。喘ぎは泣き混じりになる。

 

「や…め、て…っ、…おれ、もぅ…あッア」

 

目をキツく閉じ、歯を喰いしばって、それでも足りなくて彼の肩口へ顔を埋めた。

宥めるように背を撫でられる。おれは何かを振り払うように首を振った。

 

「本当、も……っぁ、ア……っ…、もう、おれ…ッ」

「大丈夫ですよ、大丈夫。このまま… ……ユーリ」

「…ンラッドっ、あ、いぁ…っアあぁ―――― …ッ!!」

 

達する瞬間のことは、よく覚えていない。

ただ酷く満たされた。

大きな手のひらは優しく温かくて、彼が今もおれを大切に思ってくれているのは確かだと、全身で感じた。

 

 

 

 

 

(けれど数日後におれの全身を引き込んだ海は、冷たく暗く静かだった)