「立てますか!?」

 

なおも群がってくるツタを剣で振り払いながら、コンラッドはユーリを抱き起こした。

コンラッドの背に庇われて、ユーリはなんとか自力で立ち上がろうとする。が、もう何も怖くは無いのに膝がガクガクと震え、眩暈にも襲われ、まともに体を起こせない。

 

「肩を貸しますから。とにかく、この森の外まで」

「ん…っ」

 

上着を着せかけられ、コンラッドの腕に縋るようにして、走った。

 

 

 

 

森を抜けた後、コンラッドに抱き上げられた後のことをユーリはあまり記憶していない。

抱いて運ばれるだなんて普段のユーリなら断固拒否するところだが、今回ばかりはそれどころではなかった。コンラッドの腕の中で身を固くしているだけなのに、次々と内側から生まれ出る熱、熱、熱。全身に塗り込められた媚薬が、免疫のない体に強く効いている。コンラッドが歩く度に布地がユーリの肌に擦れて、声を上げそうになる。ただじっと息を詰めて、ホテル室内までの距離を耐えた。ほとんど丸裸のユーリを抱えるコンラッドが、フロントの係員などにどう言い訳したのかすら知らないし、気にする余裕もなかった。

 

「あぅ……ッ」

 

ユーリが下ろされたのは、ホテルの部屋に備え付けの浴室だった。どんなに丁寧に優しく座らされても、肌への摩擦は避けられず、思わず体が大きく跳ねる。

 

「脱いで」

「っ、ん…」

 

羽織らされていた上着を、そっと奪われる。

布に擦れる刺激が強く響いて辛いけれど、一旦脱いでしまえば負担は軽減される。ユーリは一度、熱を逃がそうとするように熱い息を吐いた。

 

「ユーリ」

 

自らのシャツのボタンも外しながら、コンラッドが優しく囁く。

 

「身体を洗いましょう」

「…え……?」

 

ユーリは、ぼぅっとコンラッドを見上げた。正常な意識を奪われて霞んだ思考では、囁かれた言葉の意味を理解するにも時間がかかる。コンラッドの手がユーリに向かって伸ばされる頃になって、ユーリはようやくその手の意図を知った。

 

「や…っ」

 

身を捩って逃れた。こんな、全身が性感帯のような状態でシャワーを打ち付けられたり、ましてや手のひらで洗われたりしたら、どれほどの刺激に耐えねばならないだろう。

そう考えたら、伸びてくる腕は凶器にも等しかった。

コンラッドはもう一度ユーリの名を呼び、更に手を伸ばす。

ユーリはなけなしの力で立ち上がり、浴室の外へと逃れようとした。だが簡単に、背後から絡め取られてしまう。

 

「あ…いあぁッ」

 

捕らえられた腕、そしてコンラッドの胸に当たる背中に、電流のような快感が走る。

悲鳴を上げて暴れたものの、立ったまま強引にシャワーの下へ引き摺られてしまった。

 

「嫌ッ、〜――――――― …ッ!!」

 

全身に襲いかかる水滴。荒く叩き付け、そして滑るように優しく肌を流れて。

与えられる感覚全てが合わさり、狂いそうなほど強烈な衝撃になる。

言葉にならない声を発して逃げ場を求め、がむしゃらに暴れるユーリを、コンラッドは後ろから回した左腕一本で戒めた。

 

「はッア、あぅ、んあぁっ」

 

コンラッドの右手のひらが、ユーリの首筋から肩までを緩く擦った。出来る限り刺激のないよう配慮された動きも、触れられるだけで反応するユーリの体には酷烈だ。

 

「いァ、や…あぅッあ」

「ユーリ、我慢して…」

 

のた打ち回りたくなるほどの快楽の拷問に、ユーリはただ耐えるしかない。

 

 

 

 

 

 

 

 

どれほどの時間を要しただろうか。

体を洗うコンラッドの右手が首から肩、胸へと下り、腰を洗い始める頃には、ユーリはすっかり大人しくなっていた。

散々喘がされ暴れ続けたせいで体力を消耗してしまったことも理由だが、長くシャワーの下へ晒されたおかげで体の表面に塗られた媚薬がかなり薄まり、効果のほとんどを失ったので、暴れるほど辛くもなくなっていた。素直に、あるいは諦めたように、コンラッドに背を預けてぐったりとしている。

 

(…からだ……、熱い…)

 

体表の液は洗い流せても、飲まされた淫毒や奥へ注がれた淫剤の効果は未だに体内に燻っている。頭がぼうっとして。

 

(………………いきたい)

 

コンラッドの手はまだ背から腰のあたりを洗っていて、それ以上の刺激をくれそうにない。

ユーリは本能のままに、自らのものに両手を伸ばした。

コンラッドの前ですることへの羞恥心は、あまり働かなかった。正常な思考は媚薬に妨げられていたし、以前コンラッドに強要されて見られながらしたこともあったから。

 

「駄目です」

「えっ…?」

 

けれど、もう少しで触れるというところで、コンラッドに手首を掴まれてしまった。

 

「なん、で……っ」

 

もがいてみたが、コンラッドの左手はユーリの両手首を胸の前でまとめて戒めてしまった。

 

「コンラッド…」

「駄目です。こんな状態ですると、クセになってしまうから」

 

コンラッドの右手は、腰から太腿までを洗い上げている。

 

「コンラッド、も、いいから…、おれ、早く…」

「毒をある程度抜いたら、ちゃんとしますから」

「あ…、はや…く…っ」

 

内太腿を擦られて、体が震える。あとほんの少しの距離なのに、コンラッドの洗い方は念入りで、なかなか次へ移らない。しかも、洗うことだけを目的とした手のひらはユーリに余計な快感を与えないように配慮し尽くされている。それがますますもどかしい。

ほんのさっき、洗い始めの頃は、触れられるのがあんなに嫌だったのに。体は現金なもので、もう狂わされるほどの苦痛はないと判ると、途端に快感を欲してしまう。

 

「早く、はやく…おねが…ぁ、ん、ぅんっ」

 

太腿を洗い終えた指が二本、ユーリの口に入り込んだ。口内に残った淫液を洗うためだ。

苦しがって顔を背けようと呻いていたユーリだが、ふと、苦しさとは別の感覚に気付いた。舌や頬の内側に指が触れると、背筋がぞくりと震える。いかせてもらえない苦しさを少しでも紛らわせるため、少しでも快楽を得るために、ユーリは積極的にコンラッドの指を求め始めた。

 

「ぅ…ん、……んんッ、ん」

「…ユーリ……」

 

恍惚とした表情で自らコンラッドの指をしゃぶり、舐めて、吸い上げる。普段は決して見られないユーリの扇情的な姿に、コンラッドは思わず手を止めた。だがすぐに、ユーリをそうさせている苦痛の原因を早く取り除かなければと思い直す。

 

「んっ、ふ……ぅ、ん、ん」

 

一度シャワーで洗い流すために指を抜けば、ユーリはすぐに追いかけてくる。喉に届きそうなほど奥へ指を挿れても、少し苦しげに顔を歪めた後に喜んで迎え入れる。ユーリにはなんの余裕も残されていなかった。少しでもいい、刺激が欲しい。

 

「…ん……っ、あ…」

 

指が抜け、追いかけられない距離まで下りていく。ぼんやりとそれを眺めて、ユーリはその指がユーリのものに触れるのを見た。

 

――――― …あ…、あぁ…っ!」

 

ようやく、いかせてもらえる。

ユーリは安心したように目を閉じて、うっとりとコンラッドに身を預けた。楽になれるのだと信じていた。

だが実際に与えられた刺激は、ユーリの望むものではなかった。

 

「な……ん、でっ、」

 

コンラッドの指の動きは、ただユーリを洗うことだけに専念していた。ユーリの感じる箇所は意図的に避けられるか、必要最低限しか触れられない。全体を探る動きも、緩やかで遅い。

これでは楽になるどころか、逆にますます切羽詰った状態に追い込まれるばかりだ。息だけがどんどん荒くなっていく。

 

「嫌だ、離せ…っ、はな、せッ」

 

シャワーの水滴が滑っていく感触が、こんなにももどかしい。中途半端に昂ぶらされ、体はもう限界だ。

自分で触ってしまいたくてたまらず、ユーリはあらん限りの力でもがいた。だが圧倒的な力の差に敵わず、戒められた両手首は自由にならない。

 

「コンラッド…っ」

「…我慢してください。終わったら、すぐ楽にしてあげる」

―――― …コン…ラッドぉ…」

 

耐えようと思うことすら困難なほど、精神の方にも限界がきている。

はたり、と涙の一粒が落ちた。一度溢れ出すとそれは止まらず、次々に頬を伝ってシャワー混じりに落ちていく。

そんなユーリの名を呼び、コンラッドは一度手を止めた。

ユーリの体を思うなら、一時の快楽を与えるより苦痛に耐えさせてでも毒を抜くべきだ、けれど。

 

「ユーリ。あの植物には、何度…されましたか」

 

泣きじゃくりながら、ユーリは弱々しく首を振った。

 

「…いっかい…」

「一回だけ?」

「一回、いったけど、あとは…知らない…っ」

 

…それならば、もう一度ぐらいこの状態で達してしまっても悪影響は少ないだろう。

それが必ずしも最良の判断ではないと、コンラッドも自覚はしている。だが、ユーリが楽になりたいのと同程度に、もしかしたらそれ以上に、コンラッドもユーリを楽にしてやりたかった。

 

「あ…アっ」

 

再びユーリに触れた指は、ユーリを頂へ導くように動かされた。

強めに圧迫され、先端付近をなぞられて、ユーリはぽろぽろと更に涙をこぼした。今度は苦痛の涙ではない。望む絶頂を、コンラッドがくれるから。

 

「っ…うあ、ア…あッ」

 

声は殺せない。殺す余裕もない。

あられもない声に呼応するように、ユーリを追い込む指の激しさも増す。コンラッドの手のひら一つで、ユーリの全てが快感に塗り替えられていく。

 

「いっ…んあァ、あ、ひぁ…ああぁッ」

 

甘やかすように弄られて、ユーリはあっという間に果てていた。

 

 

「はあ、…は……ぁ」

 

蓄積された快感が一気に解放され、ユーリはがくりとその場に崩れ落ちる。床に体をぶつけないよう、コンラッドの腕がそれを支えた。

 

「ユーリ」

「ん……」

 

コンラッドは、ぐったりと力の抜けたユーリの体を反転させた。コンラッドの側を向かせ、ユーリの足がコンラッドの足を跨ぐような格好で腰を下ろさせる。

放心したような虚ろな眼が、コンラッドをぼんやりと見つめた。

 

「ここを洗ったら、最後ですから」

 

コンラッドの指が、ユーリの蕾に触れる。ユーリはピクリと少し体を震わせただけで、素直にコンラッドに凭れかかった。

二本の指は、普段よりすんなりと迎え入れられた。媚薬を掻き出すために指を曲げ動かすと、ユーリは少し辛そうに顔を紅潮させて、コンラッドの首に腕を巻きつけ、縋りつく。

 

「ふぁ…ん、んぅ…」

 

コンラッドは空いた手でユーリの顎を捉え、唇を塞いだ。閉じかけた口を許さずに舌を捻じ込むと、ユーリは程なく協力的に応じてきた。飲まされた媚毒のせいで、求めは普段より積極的だ。

 

「んん…んっ、ぅ」

 

体内を弄る指の動きに、ユーリの舌も反応する。軽く刺激を与えれば舌はピクリと止まり、少し激しく動かせば痙攣したように震える。

コンラッドは少しの罪悪感と共に、ユーリのその反応を楽しんだ。

 

「ん、ふ…ぁ、……もっと…」

 

解放されたユーリの唇が紡いだ第一声は、それだった。

何を求めての“もっと”なのか判りかね、コンラッドはユーリに尋ねる。キスか、指か、それとも別の何かか。

聞かれたユーリにも、何がなんだか判ってはいなかった。ただ、まだ体が熱に浮かされていて。

 

「もっと、…奥、して…ッ」

 

ようやくそれだけを言った。内側全てが熱くて、なんとかしてほしかった。

 

「…指では、これ以上奥へは届きませんよ」

「……ぁ…」

 

その言葉の意味を理解し、ユーリは逡巡するように俯いた。

コンラッドは指を引き、ユーリの腰を両手で保定して持ち上げる。

 

「ユーリ、大丈夫ですね」

「あっ……」

 

腰を下ろされて、コンラッドの切っ先が入り口に触れた。

 

「うん、ん……ッあ、い…あぁ――― …っ」

 

ゆっくりと内部を犯されて、ユーリは切羽詰った声を上げて仰け反った。

あの変なツタが入り込んだ時よりも太くて、苦しくて、だけど酷く安心する。

 

「ア…ぁ、――― …もっと、」

「ええ、もっと…」

 

コンラッドの全てを受け入れて、ユーリは荒い息を吐きコンラッドに縋み付いた。

口では「もっと」と言いながらも、本当にこれ以上の快楽を得たら壊れてしまいそうな気もして、ユーリはコンラッドの胸に頬を寄せて震えた。

背中を撫でられて頭を上げると、そこには優しげなコンラッドの顔。

 

「…んっ……」

 

キスも、優しい。ユーリは夢中でコンラッドの舌を貪った。

内側から生まれる熱に体を燻られ、もどかしさを全てコンラッドにぶつけているような状態だが、コンラッドは何も言わずに受け止めてくれる。

 

「ぁ、動かし…たらぁ、んッ、…ぃ…ッ!!」

 

揺さぶられ、突き上げられて。

何度達したか分からない。

 

 

 

 

 

 

ユーリが目を覚ますと、窓からは真っ赤な光が差し込んでいた。夕焼けだ。

ユーリは丸裸の状態で、シーツに包まれて寝かされていた。

どうしてだっけと考えて、

 

「ユーリ? 気が付きましたか」

「……あ」

 

コンラッドの前で散々な痴態を晒した自分を思い出し、ユーリは夕焼け以上に赤くなる。

 

「もう、あの作用は何も残っていないようですね。良かった」

 

ユーリの首筋に手を当てて、コンラッドが微笑む。

ユーリは体を起こし、手渡されたシャツに腕を通した。

 

「なあ、聞いていい? あの…植物って、なんなわけ? この世界って、あんなのがゴロゴロしてんの?」

「ゴロゴロはしてないよ。ごく限られた地域にしか生息していません」

 

あれは魔の性質を好む植物らしい。

人間の地に生息するものは、魔に飢えて手当たり次第に人やらなんやらを襲ってしまう。しかも襲う方法がイロイロとあれなので、今はほぼ完全に駆除されている。

眞魔国に生息するものは、周囲に満ちる魔の力に満足するため、普通は森の奥で大人しくしており、何かを襲うことは滅多にない。稀に魔力の高い者が狙われても、護衛の一人もいれば問題ない。

 

「だから、生物種の絶滅を防ぐという意味でも、眞魔国内の数箇所に自生する分については駆除せず放置しているんですよ。別に害はありませんから。…まさか、魔王ほどの魔力を持つ者が一人で無防備にほいほい捕獲されにいくとは誰も思わなくて」

「……う」

 

ごめんなさい。とユーリは俯いて謝る。確かに自分が悪かった。

コンラッドは少し切なげに顔を歪め、ふわりとユーリを抱き竦めた。

 

「いつだってお守りしたいのに」

「……………うん」

「無事で良かった。あれしきのことで済んで」

「……うん」

「二度とあんな目には遭わせたくない」

「うん」

「もう、護衛も連れずに一人歩きはしないでくれますね」

 

「う… ……………んー…?」

 

コンラッドはゆっくりとユーリを解き、軽く眉間に皺を寄せてみせた。ユーリの肩に両手を置いて正面から見つめ、「どうしてそこで頷いてくれないんですか」と問う。

 

「えっと…嘘はつきたくないし」

「嘘にしなければいいんです」

「そりゃ今回のはさすがに懲りたし、善処はするけどさ。思い立ったら即行動しちゃうクセはどうにも…」

「…また、あんな目に遭いたいんですか」

「まさか! けど、またあんな目に遭う可能性ってかなり低いじゃん?」

 

懲りたと言いつつ全く懲りてはいない、無邪気な瞳がコンラッドを見上げる。

そう簡単には引っ込まないのがユーリの長所と言えば長所だし、そんな主君だからこそ愛しさも増すというものだ…が。もう少し、自粛してくれないものかとコンラッドは思う。

 

「…では、こうします。今後またあなたが一人歩きをするようなことがあれば」

 

ユーリの行動を制限できはしないし、したくもない。けれど軽い脅しをかけるぐらいは許されるだろう。何かあってからでは遅いのだから。

 

「今回のことに全く懲りていない、むしろこの行為を楽しんだものとみなして、媚薬をご所望だと解釈します」

「へ? って、どういう…」

「強力なのを準備しておきますね。もちろん、副作用のないやつを」

 

コンラッド得意の爽やか笑顔が、ユーリを凍り付かせる。

 

「な、なぁそれ…冗談…」

「に聞こえますか?」

「う…あ〜……、…ど、どっちにも見えるんだよその笑顔はっ!」

 

『軽い脅し』にしては効きすぎという気がしなくもないが、ユーリにはこれぐらいで調度良いのかもしれない。

 

「代わりと言っちゃなんですが、明日は一日フリーになりましたから。どこへなりとお供しますよ」

「え、一日中!?」

 

一転してパッと明るくなる表情は、いかにもユーリらしく愛くるしい。

 

「そう、だから今日はゆっくり休養してください。明日は元気に動き回れるように」

 

今はまだ腰が立たないでしょう、と悪戯っぽく付け加えると、ユーリは再び真っ赤に染まった。