この世界ではあまり単独で出歩くものではない、と頭では分かっている。

だが真に実感が沸かないのは、平和な日本生まれの影響か、持ち前の前向きな精神によるものか。

 

今日もまたユーリは一人、街外れを歩いていた。

 

ここは眞魔国の端に位置する町。

現在、コンラッドと二泊三日のお忍び旅行中……というか、こちらに用事があるというコンラッドにユーリが付いてきた。

観光地ではないから特別なものはないけれど、のびのびと羽を伸ばすには充分だ。

今日は仕事のため、コンラッドは日中から出掛けている。「俺が戻るまでは、この宿から出ないでください」と釘を刺されてはいたのだけど。

 

(こんな天気の良い日に部屋に閉じこもるなんて、もったいねーよなぁ)

 

眞魔国内だし、しかも明るい昼間だし。

気を抜かなければそう危険もないだろうと、ユーリは部屋を抜け出して散歩に出たのだった。

胸いっぱいに吸い込む空気がおいしい。脇に広がる森林が二酸化炭素を酸素に変えているからかなぁと、ユーリは中途半端な理科の知識を思い出す。この空気の良さばかりは、日本の故郷では太刀打ちできないだろう。東京の空気は車や工場によって汚れているし、緑より人の方が多いから断然二酸化炭素が圧勝している気がする。

 

「…ってここ、人通り少なすぎ」

 

のんびり歩いていたら、いつの間にか人気のない場所まで来てしまっていた。酸素が多そうなのは良いとしても、さすがに一人で歩くのは無防備かもしれない。

戻ろう、とユーリが反転した時だった。

 

「っわ!?」

 

転んだ。

いや、それ自体は問題ではない。地面を適度に覆う草のクッションのおかげで、怪我はない。

問題は、転んだ原因。

 

「な……、んだよコレ!?」

 

右足首に、暗緑色のツタが絡まっている。

ツタは森林の方から伸びていて、ユーリをずるずるとそちらへ引き摺っていく。

足を抜こうと慌ててツタを掴んだが、食い込むように絡まったそれはユーリの力ではとても取れない。せめてナイフがあれば…いや、ユーリの手首ほどの太さもあるそれがそう簡単に切れるとも思えない。

ツタを解こうと格闘している間に15メートルほども森の奥へと引き込まれ、不意にユーリが顔を上げると、無数のツタがユーリを取り囲んでいた。

 

「ぅわ……ッ!!」

 

ユーリが叫ぶのと、ツタが一斉にユーリに向かってくるのはほぼ同時だった。

 

「わ、……っわ、このッ」

 

手足に絡み付こうとするツタを乱暴に振り払う。右足に絡まるツタのせいで、逃げようにも逃げられない。腕と片足に集中している間に、一本のツタが腰を捕らえてしまった。

 

「……っ!?」

 

次の瞬間、ユーリの体は宙に浮いていた。

右足と腰に絡んだツタが、ユーリを吊り上げている。

人の体は、空中で上手く動けるようには出来ていない。まして逆さ吊りでは、重力の感覚も掴めない。闇雲に暴れてはみたものの、ユーリの手足それぞれにツタが絡みついてしまうのに時間はかからなかった。

 

「…なんなんだよ、これ…っ」

 

絡みつくツタによって、ユーリは空中で大の字に張り付けられたような姿勢を取らされた。腕や脚をバランス良く支えられているため体への負担は少ないが、無数のツタがユーリを眺めるように周囲で蠢いているのは気味が悪い。

その中から一本だけユーリに近付いてきたツタが、粘り気のある透明な液体を靴へと垂らした。

 

「っわあぁぁうわっ!」

 

じゅわり、と嫌な音を立てて、液体の触れた靴が溶けた。

ツタはゆっくりと昇ってくる。ズボンの膝部分を溶かし、腰のベルトを溶かし、腕から手首までを溶かして。

こんな、布地を簡単に溶かしてしまうような強力な消化能液が肌に触れたりしたら、どうなってしまうのか。

 

「ひっ…」

 

そのツタの先端が、ユーリの首付近まで近付く。避けようにも、体の自由になる部位はひどく少ない。耳のすぐ近くで濡れた音がして、服の肩が溶かされる感触がした。

このままでは、じきに剥き出しになった首に液が触れてしまう。もう駄目だ、とキツく目を閉じ歯を食いしばる。

 

「…うっ……、…ん? あれ…」

 

明らかに、液体がユーリの首に直接垂れている。だが痛みはなかった。それどころか、熱くも冷たくも感じない。ただ液が流れて布に触れると、その部分が溶けていく。

肌には無害で服だけを溶かす液だなんて、地球では魔法でもなきゃあり得ない話だけれど、この世界には魔術なんかもあるわけで…そういえばモルギフ温泉でも似たような現象があったことをユーリは思い出す。あれとこれとは全く別物だが、似た類の不可思議な力が働いているのかもしれない。

ツタはユーリの全身を廻り、服をほとんど全て溶かしてしまった。厚いズボンに守られたせいか、下着だけは ほぼそのまま残っている。

 

(なんだよ、これ…?)

 

考えて、ユーリの頭に浮かんだ単語は『食虫植物』だった。もちろんこの場合、食われるのは虫じゃなくて。

 

(まさか、それっぽい本体があったり…)

 

おそるおそる見回してみたが、ユーリの記憶するような食虫植物型のものは見つからなかった。代わりに目立っていたのは、右斜め後方のツタ数本の先端に咲く、赤い花。直径は30cm程度、朝顔のような円錐形で、筒型の部分から覗く五本のおしべが長く目立っている。

人を食いそうなおどろおどろしい色ではあるが、人の体全体を包めるような大きさではない。花の中に入るのは、せいぜいが手首や足首までだろう。

 

(…手や足からじわじわ少しずつ消化されるとか?)

 

怖い想像になった。一口でパクリと食われた方がまだマシだ。

いやそもそも食われること自体ごめんだ。せめて腕一本でも自由にならないかと暴れてみるが、とても抜けられる気がしない。

そうしてユーリがもがくのを咎めるかのように、体中にツタが這い出した。

 

「っう、わ」

 

今までは最低限のツタで捕獲されていたのが、拘束に必要のないツタまでもがユーリに絡みつく。それらは、先端やその周辺から透明な粘液を出し、ユーリの肌に塗りつけるように振動した。粘液は、服を溶かした液とは別物のようだ。

 

「ん……っ、ぐ」

 

ツタの一本が、ユーリの口をこじ開けて押し入ってきた。

思いきり噛んでみたが、せいぜい歯型が付く程度だ。先端から垂れる液がユーリの舌に触れ、クセになりそうな甘ったるさを感じた。ツタはユーリの口内で三股に分かれて舌を嬲り、ユーリが液を飲み込むように促す。生理的な反射でなすすべなく、ユーリは何度かその甘い粘液を嚥下した。

その間にも、体中がべたべたに濡らされていく。

 

「っん、ん……ッく、けほっ」

 

ユーリにある程度の液体を飲み込ませると、ツタはすんなりとユーリの口を解放した。喉に引っかかる感触の気持ち悪さに、何度か咳き込む。

 

「あっ……う、…」

 

小指よりも細いツタが、先から液を分泌しながらユーリの左の乳輪をくるくると撫ぜた。それだけの刺激で、直接触れられてもいない胸粒がぷくりと膨らむ。

荒くなる息をはぐらかして耐えていると、右側にも同様に別のツタが触れた。あくまでも中心には触れず、周囲で円を描かれ、ひどく焦らされる。知らず、身体を揺らして刺激を欲してしまう。

 

「ッあ、…んぁ」

 

ようやく望む場所にツタが触れた瞬間、ユーリはあられもない声をあげてしまった。

 

(なんで、こんな…)

 

乳首にツタが巻きつき、胸先をカリカリと擦る。息が熱く乱れて仕方がない。自分の身体はこんなに淫猥だったろうかと、ユーリは霞む思考の片隅で考える。先ほど飲まされた液や身体に塗りたくられた液が催淫性の媚毒であったことなど、ユーリには知る由もない。

 

「はぁ、…あ…っん」

 

他のツタがユーリの首筋や背筋を伝うと、甘く痺れるように感じた。全身がすっかり過敏になり、全ての刺激を快感として受け止めている。ツタの這う部分から徐々に力が抜け、暴れる気力すら沸かない。

 

「…んぅ…、は…っ」

 

ユーリの上半身を制圧したツタは、次なる狙いを定めた。

背筋をゆっくりと なぞるように下り、下着を剥がして、小振りな双丘に辿り着く。

 

「っア、嫌…だ……」

 

細いツタの数本が、ユーリの入り口を弄り出す。くすぐるような淡い刺激に耐えかねて、はぁと息を吐いた瞬間、

 

「あァ……ッ!」

 

ほころび始めていたそこへ、ツタの一本が侵入を果たした。指よりも細いそれは分泌液のぬめりも借りて容易く奥へと入り込む。

 

「っやぁ…、あ、んぁッ」

 

ツタはユーリの中を知り尽くしたような的確な箇所へ振動を与え、ユーリを更に乱そうとする。入り口では他のツタが、隙あらば更なる侵入を果たそうと そこをつつき続けていて、その刺激でユーリの身体はますます火照る。

閉じられない足に力を入れて、ユーリはがくがくと身を震わせた。

 

「…あ……は…―――― …ッ」

 

既に勃ち上がっているユーリの根元を、何かが掠める。見れば、先ほどのあの大きな赤い朝顔がユーリをくすぐっていた。

今度は『食われる』とは思わなかった。ただ本能的に、それがユーリに快感を与えるものなのだと理解した。

 

「いっ……あ、アッ」

 

ユーリのそれは、ねっとり湿った花びらに覆われ、そのまま花の奥へと誘導された。

コンラッドに口でされる感覚にも似ているが、花びらの動きはそれより小刻みで生々しい。

花びら表面のザラザラした突起が、塗り込められる蜜により滑らかに滑り、ユーリは今にも達してしまいそうになる。

 

「あ、…ぅ、何……ぁ、んあッ!?」

 

ユーリを追い詰めるのは、花びらだけではなかった。長い五本のおしべがユーリの括れを重点的に責め、めしべは先端を優しく撫でてユーリに解放を促している。

胸や首筋を撫でるツタもそのままで、ユーリはどこにもない逃げ場を探すようにふるふると弱く首を振った。

 

「…んあッ、…え、ぅ…あっ、あ」

 

声を抑える術も忘れ、なされるがままに声をあげる。新たに近寄ってきたツタが耳を舐め上げるが、振り払う余裕もなく責め続けられる。

 

「ひぁ…ん、…あ、ああぁッ!!」

 

隙を突いたように、ユーリの内へもう一本の細いツタが入り込んだ。

そうしてユーリの中に侵入した二本はバラバラに動き、競い合うようにユーリの弱い部分を責め立てる。あまりの刺激に大きく叫んだが、助けはこない。

全身の感じる部分全てを刺激されているような気がする。快感も、与えられすぎれば苦痛に転じるのだとユーリは初めて知った。こらえられない涙が、次々と地に届く。

ユーリを包み込んで支配する花も、背後から侵入して内側から犯すツタも、体中を這っては粘液を出すツタも、何もかもに神経を奪われる。一箇所の刺激に耐えることに意識を集中すれば、他の箇所への不意の刺激に悲鳴をあげてしまう。かと言ってそちらに集中すれば、また同じことで、その繰り返し。

今もまた、強く中を責め立てられて歯を食いしばっていたら、突然に花びらが不規則にうねってユーリ自身を追い詰めた。

 

「ぁ…っア、んぁ」

 

大きな波に襲われて、背筋を震わせた。こんなものに達かされるなんて冗談じゃないと思う。けれど我慢できたのはほんの数秒だった。

 

「んん、っ……あ、あ、あぁ―――― …ッ!!」

 

めしべに先端を強く擦られて、促されるままにユーリは精を放った。それを一滴残らず飲み込もうとするように、花が妖しく蠢いた。

 

 

 

 

「はぁ、………は…ぁ」

 

絶頂から落ちて、ユーリはぐったりと体の力を抜いた。これほど重力に身を任せているのに地上が遠いというのは、妙な感覚だ。

 

「……あ、ふぁ…っ」

 

入り込んでいたツタが、ユーリの内側からゆっくりと抜かれていく。

もう終わるのだろうか、解放されるのだろうかと淡い望みを抱いたが、四肢に力を込めてみても相変わらず動かせない。

 

「ん…あ、ぁっ」

 

不意に軽くこすられて、萎えかけていたものをまた反応させられる。

驚いて目を開けると、先ほどとはまた別の赤い花がユーリを狙っていた。

 

(嘘、……また!?)

 

先刻までユーリを弄んでいた花は、くるくると縦に巻かれ、朝顔のつぼみのような縦長の形状をとった。そしてユーリの後ろへと近付き、ノックするようにつつく。

――― 内を犯そうとしている。それを理解して、ユーリは青ざめた。

 

「…い…や……っ」

 

近寄ってきた二本のツタが独特の粘液を使い、よってたかってユーリの入り口をほぐし始める。ツタ自体に侵入する気配はなく、あくまでも花の侵入を補助する目的のようだ。

花はそれほど太くはなく、侵入による痛みはなさそうだった。ただ、中でまたユーリをかき乱すように動かれることが怖かった。

 

「や……ぁッ」

 

後ろにばかり気を取られるなと言わんばかりに、前の花がユーリの幹をこする。慌ててそちらへ目をやると、今度は後ろの花が準備完了の合図のようにユーリの入り口を撫でた。

 

(おれ、……また…)

 

前を包み込む準備と、後ろへの侵入の準備が終わり、後はまた強制的な快楽に狂わされるだけ。

 

「…ぁ……」

 

緊張を解すためだろうか、ユーリに忍び寄ったツタが胸先にまとわりついて、そこを柔らかく擦る。そんな淡い刺激でも、ユーリの体は悦びに震えた。

 

…おれ、このまま変になっちゃうのかな。

 

諦めかけて目を閉じたその時、風を切る音が聞こえた。次の瞬間、ユーリの体は重力へ向かって解放された。

落ちる。

着地に備えなければとは思うも、ロクに力が入らず、結局ユーリは落下する体を放棄した。ぼんやりと霞んだ思考では、怪我なんてどうでも良いことに思われた。

しかし実際には、体が地面に叩き付けられる衝撃を味わうことはなかった。

 

「ユーリ!」

 

男の腕に、受け止められたから。